最新記事

自動車

GMの嘘は「ボルト=EV」以外にもある

シボレー・ボルトが単なるハイブリッド車だった疑惑など、復活の夢を売ろうとするあまりの誇大宣伝が次々に発覚

2010年10月15日(金)18時13分
ミッキー・カウス(ジャーナリスト)

看板倒れ 新型エコカーの開発でGMは「復活」を印象付けたかったらしいが Rebecca Cook-Reuters

 巨額の補助金を得て開発され、華々しい宣伝を重ねてきた米ゼネラル・モーターズ(GM)の新型電気自動車「シボレー・ボルト」が、全米発売を目前にしてPRの大失策スキャンダルに見舞われている。

 ボルトは「電気モーターのみで走る」電気自動車で、ガソリンエンジンはあくまでもバッテリー残量が少なくなった時に電気モーターに電力を供給して「走行距離を上乗せする」ためだけの補助的装置のはずだった。トヨタのプリウスやフォードのフュージョンといったハイブリッド車とは違い、ガソリンエンジンで直接車輪を動かすなどという原始的なまねはしない。少なくとも消費者は、GMにそう信じ込まされてきた。

 しかし考えてみれば、これはちょっとおかしなコンセプトだ。バッテリーが残り少なくなったとき、なぜわざわざガソリンエンジンで発電し、その電気を電気モーターに送って車を走らすという回りくどいことをしなければならないのか。エンジンと電気モーターの間でエネルギーのやりとりを繰り返す度にエネルギーが無駄に失われるというのに。必要な時はガソリンエンジンで直接車輪を駆動したほうがよほどエネルギー効率がいい。それとも、それでは電気モーターに失礼だとでもいうのか?

 ボルトの設計担当者も、エンジンで直接車輪を駆動する利点に気づいたのだろう。最初の宣伝とは逆に、ボルトはハイブリッド車と同じく必要時にはエンジンで車輪を動かす仕組みであることが判明した。しかも、ガソリンエンジンを併用すると明らかに燃費は下がり、実際の公道では「フル充電で最大40マイル(約64キロ)走行できる」という謳い文句どおりにはならない。これまでの誇大広告に、消費者は大きく失望することになりそうだ。

 GMは嘘をついていたのか、それとも曖昧な言い方で事実を誤魔化していただけなのか。その真偽をめぐり、自動車関連のブログでは論争が続いている。「嘘をついていた」という批判に対してGMは、「ボルトのエンジンとタイヤには直接の機械的つながりはない」「プリウスなどのハイブリッド車とは方式が異なる」などと反論している。

ガソリンエンジンのおまけ付き?

 ボルトはあくまで最新鋭の電気自動車だと言うことも可能だろう。しかも時速70マイル(約112キロ)を出すガソリンエンジンというおまけ付きだと。あるいは、所詮ボルトは電気モーターですべてをまかなうことができず、プリウスのようにガソリンエンジンの補助が必要な車に過ぎなかったとも言える。

 明らかなのは、GMの無能な広告担当者が熟練技師の努力を台無しにしたこと。広告担当者は、一般大衆はボルトの実際の技術革新だけでは我慢できず、GM復活の夢物語をほしがっていると感じているようだ。結局のところ、GMの嘘は今回で3回目になる。

 その1:今年4月、当時の会長兼CEOだったエドワード・ウィタカーがウォールストリート・ジャーナルに、公的資金を使った09年の政府支援をGMはすべて「返済」したという記事を寄稿した。実際には、ほんのわずかな借金しか返済していなかった。

 その2:ボルトの市街地燃費が、米環境保護局(EPA)の基準で230MPG(230マイル/ガロン=約97キロ/リットル)になると宣伝した。しかし、EPAはボルトの燃費を計測していないし、実際の距離は30マイル(約48キロ)代になりそうだ(バッテリーの充電がいらない程度の短距離ばかり走るなら、驚異的な燃費になるだろうが)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中