最新記事

新興国

BRICs時代はこれからが本番

2010年1月26日(火)16時08分
ジム・オニール(ゴールドマン・サックス チーフエコノミスト)

 同じくメキシコとナイジェリア、トルコも有望だ。特にトルコは若者人口が多い上、地理的に東洋と西洋の交差点に位置する点が注目される。

 約1億人の人口を擁するメキシコは、本来BRICsに加えるべきだったと思うことも少なくない。だがメキシコ政府は、生産性の低さと石油収入への依存という根本的な問題にほとんど取り組んでいない。アメリカという隣の超大国に労働力とエネルギーを供給するだけで、容易に成長を実現できるという甘えもある。

 天然資源が豊富なナイジェリアも、経済をもっと近代化させれば大きな成長が可能だろう。何しろ同国はアフリカ最大の人口を抱え、潜在的な市場規模は南アフリカの約4倍に達する。

 こうした新興国の台頭を受けて、世界はどう変わっていくのか。真っ先に言えること、そしておそらく最も重要なことは、予想もつかないさまざまな政治的・経済的変化が起きる可能性が高いことだ。先進国と新興国が集うG20(20カ国・地域)は、摩擦緩和のためにますます重要な場になるだろう。

 新たな問題やリスクは既に浮上し始めている。第二次大戦以降、世界の経済大国は民主主義国と決まっていた。だが今後は、例えば中国が真に欧米型の民主主義国になるかどうか予断を許さない。

多極通貨制度にも現実味

 アメリカとヨーロッパは、経済で肩を並べる存在となった中国にどう対処するのか。BRICsは互いにうまくやっていけるのか。長い国境線をめぐって長年小競り合いを繰り返してきた中国とインドが、互いに力を付けて再び衝突することはあり得るのか。あるとすれば、世界経済にどんなインパクトを与えるのか。

 こうした力関係の変化は、世界の経済と金融の新しい枠組みにも影響を及ぼすだろう。

 中国が人民元の変動相場制に移行し、資本規制を全廃するのは時間の問題──これは大方の見方であり、私もかねてからそう考えてきた。だが最近極東を訪問してからは、確信がなくなってきた。

 中国やインドが今回の危機を乗り切ることができたのは、さまざまな資本規制のおかげでもある。両国政府は、欧米の偉そうな助言に従って資本規制の撤廃を早めなくてよかったと考えている。

 20年には中国のGDPは世界のGDPの約15%、インドは5〜10%を占めるだろう。つまり両国は、アメリカやヨーロッパの経済規模に近づいているはずだ。そうなれば、今の欧米の政策当局者には思いも寄らないような提案をする発言力も手に入れる。「もっと多極化したグローバル金融システムを考案しよう」と。

 実際、09年のG20首脳会議前に中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁が行った提言は、近年で最も興味深いものの1つだった。ドルではなくIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)を世界の新基軸通貨にするべきだというのだ。以来、私はこの提案にいろいろ考えさせられた。

 もし世界が、ドルやユーロや人民元などの主要通貨(ひょっとすると円も)の交換レートを管理する為替システムに移行したらどうなるのか。かつて世界の通貨の価値が金を基準に決められていたことを考えると、別の形の管理通貨制度も機能し得るかもしれない。

 新しい多極通貨制度は、世界の貿易や投資パターンの多様化を促す。ドル依存が引き起こした貯蓄と消費の世界的な不均衡を緩和するのにも役立つだろう。より豊かでより健全な世界経済が、そこから生まれるかもしれない。  

[2009年12月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国

ワールド

ロシア中銀が0.5%利下げ、政策金利16% プーチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中