最新記事

金融危機

ドバイは湾岸のリーマンだった

2009年12月9日(水)15時38分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

自由が仇に 悪いところまでウォール街に似ていたドバイ Reuters

 アラブ首長国連邦のドバイは経済発展の新しい形として湾岸地域、そして世界のモデルになるはずだった。だが、その「モデル」もどうやら欠陥品だということが分かってきた。

 市場開放を嫌う中東において、ドバイは投資家たちが自由になれるオアシスのような存在で、競争力も備えていると評価されてきた。石油資源のないドバイは資源成り金たちの現金を吸収することで成長。しかし、あぶく銭を奪われて桁違いの負債を抱えたドバイの競争力は徐々に低下してきている。

 好景気の間に台頭した多くの企業と同様、ドバイは商業不動産に依存した世界的バブルと多額の負債を原動力にしてきた。ところが11月末には、政府系企業の債務590億ドルの返済延期を要請。今のドバイは、08年に世界の金融システムを麻痺させたあの企業、リーマン・ブラザーズにそっくりだ。

短期の借り入れで長期の投資

 リーマンと同じく、ドバイは長期的な非流動資産を購入するために短期の借り入れを行うという過ちを犯した。

 政府系投資会社ドバイ・ワールドとその傘下の不動産会社ナキールは世界の資本市場から数百億ドルを借り入れ、その資金をカナダのエンターテインメント集団シルク・ドゥ・ソレイユや米高級百貨店バーニーズ、ヨット事業や金融サービス企業、そして何より不動産の買収に充てていた。リーマンも同じように、数百億ドルの借入金を商業用オフィスビルや共同住宅地などの非流動資産に投じていた。

 リーマンが商業手形市場、債務担保証券など金融工学のあらゆる新型商品を利用したように、ドバイも土木工学のあらゆる新技術を登用した。ヤシの木の形に埋め立てた人工島や、屋内スキー施設、世界一の超高層ビルの建設などだ。

見捨てられると思わなかった

 理論上は、リーマンはコーポレート・ガバナンス(企業統治)のモデルだった。経験豊富なトップを監督する取締役会が一般株主を代表するはずだった。だが実情は外部の利害関係者を軽視し、内部関係者のために運営された独裁政権だった。ドバイでも、主要企業は王族とその一派の管理下にある。

 リーマンは、米政府や投資銀行仲間が自分たちの破綻を見過ごすことなどまったく想定していなかった。同じように市場も、そして恐らくドバイ政府もこう見込んでいる──アラブ首長国連邦という石油大国が、首長国の1つであるドバイの負債に救済の手を差し伸べるだろう。だが今のところ、ドバイへの緊急援助の兆しはない。

 もう1つ、リーマンとドバイの共通点がある。両者とも自分たちは大き過ぎてつぶせないという幻想を抱いていたことだ。

[2009年12月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中