最新記事

通貨

人民元安でも中国にほえない「犬」たち

ドル安に連動して下がる人民元のせいで、ヨーロッパやアジア諸国は多大な迷惑をこうむっているのに、なぜ中国に怒らないのか

2009年10月26日(月)15時08分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授)

迷惑通貨 不当に安い人民元がヨーロッパやアジアの輸出競争力を下げている Sean Yong-Reuters

 私は先日ドルについてブログを書いたが、経済学者ポール・クルーグマンが今日のニューヨークタイムズ紙のコラムで、関連した話題を取り上げている。中国が人民元の対ドル相場切り上げを拒否していることだ。


 私を含めて多くのエコノミストは、中国の(国外)資産買いあさりが(アメリカの)住宅バブルを膨らませ、世界金融危機の下地をこしらえたと考えている。だが中国は、ドルが下落している現在も人民元の対ドルレート固定にこだわっており、その政策がより大きな害を及ぼしているかもしれない。

 ドル下落に関しては破滅的な予言が多くなされてきたが、実は今のドル安は自然かつ望ましい。アメリカは貿易赤字を減らすために安いドルを必要としている。神経質な投資家は金融危機のさなかに安全とされる米国債に避難していたが、最近その資金をほかの場所で運用し始めた。それがドル安の一因になっている。

 それでも中国は自国通貨をドルに連動させ続けている。これは、巨額の貿易黒字と急速な景気回復によって本来その通貨価値が上がるべき国が、事実上大幅な通貨切り下げを行っているに等しい。


 クルーグマンはさらに、米財務省がこの件で中国政府を責めていないことを強く批判している。

 彼の言い分に異論はない。だが重要なのは、中国の通貨政策によって最も被害を受けている国はアメリカではないことだ。世界のその他の国々、特にヨーロッパと環太平洋諸国が中国の政策によって非常に不利な立場におかれている。

 こうした国々では自国の通貨がドル、人民元の両方に対して高くなっている。それは自国の製品がアメリカ市場において、アメリカ製品や輸入中国製品より競争力が落ちることを意味する。

 そこから今日のブログのタイトルを思いついた。クルーグマンは、この件で中国と話し合う動機の一番強い国はアメリカだと想定している。もしアメリカが覇権国として行動していると考えるなら、そのとおりだろう。だが直接の経済的利害からすると、なぜヨーロッパや東アジア諸国が怒りの叫びを上げていないのだろうか。彼らは中国の政策のせいで望まない行動(為替介入など)を取らざるを得なくなっているのだ。なぜもっと声を上げないのか。不思議だ。

[米国東部時間2009年10月23日(金)11時03分更新]


Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 26/10/2009. © 2009 by Washingtonpost. Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中