ステルス巨大企業・華為の実力
華為は研究開発に巨額の投資をしており、08年には特許申請数で世界一になった。だがその「技術革新」の多くは、顧客企業の要望に合わせて既存の技術を改良しただけのもの。最近の例を挙げれば、メキシコの通信会社のために作った防弾仕様の通信機器や、ロシアの冬の寒さにも耐える機器などだ。とても平均的な消費者が飛び付く代物ではない。
「そこにわれわれの製品が使われていても、消費者はまったく気付かないかもしれない」と、フォックスは言う。華為の「全社的な原動力」は企業顧客に奉仕することなので、知名度のなさはむしろ「強み」なのだ、とも。
華為が典型的だが、中国の他のグローバル企業も大半は企業相手の商売をしている。ボストン・コンサルティング・グループが1月に発表した最新の「新しいグローバル・チャレンジャー100社」リストには、産業の既存秩序を揺るがす挑戦者として中国企業36社が名を連ねている。どの国よりも数が多く、そのほとんどは華為より知られていない(ベアリング・メーカーの万向、エアコン用のファンを作る美的電器など)。
多少名を知られているのは、国外ブランド買収で知名度を手に入れた企業だが、それも大成功しているとは言い難い。05年にIBMのパソコン部門を17億5000万ドルで買収したレノボは国外での売り上げ拡大に苦労して、今は国内シェアの維持に専念している。
中国最大の家電メーカー、ハイアール(海爾集団)は、世界の低価格品市場で一定のシェアを獲得し、外国ブランドの買収でより高価格帯の市場へシフトしようとしている。最近では、ニュージーランドの高級家電ブランド、フィッシャー・アンド・ペイケルの株式20%を取得した。
ハイアールの最大の問題は、ハイアール製品は安いと認識されていることだと、上海のコンサルティング会社アクセス・アジアの主任中国アナリスト、ポール・フレンチは言う。「高級品で成功したければ、会社のイメージを根本からつくり変えなければならない」
危機に乗じてブランド買収が加速?
中国がグローバル・ブランドを作り損ねた最も単純な理由は、国内の過当競争だ。ほとんどの製品に数百から数千社のメーカーがあって国内シェアを奪い合っており、利幅は限りなく薄い。
自動車など原動機付き乗り物を作る認可を持つ企業は150社。自転車に至っては500社以上だ。しかも高価格帯のシェアはほとんど外国ブランドに握られているため、大半の中国企業は値下げ競争をするしかなく、研究開発や商品開発に割く資金は残らない。
ブランド製品の価値の源泉である特許やアイデアなどを守る知的所有権の保護が弱いことも、企業が技術革新のための大きな投資に二の足を踏む一因だ。うまくいけば世界的に有名になれるかもしれないが、国内の競争相手に簡単に盗まれてしまうリスクもある。
有毒ペットフードや欠陥タイヤなど近年相次いだ製品リコールのせいで、消費者は中国製品を警戒するようにもなっている。
ロンドンのコンサルティング会社インターブランドが08年に発表したリポートによると、国際的なビジネスマン700人の66%が中国製品を形容するのに最もふさわしい言葉として「格安」を挙げた。中国製品の品質が向上していると答えたのはわずか12%。80%は品質が悪いという印象が「中国ブランドの世界での成功を妨げている」と回答した。
グーグルやナイキのようなブランドに見られる高い技術力と絶妙なマーケティングの融合はまさに芸術であり、中国企業はまだそのノウハウを会得していない。それを買収合戦で手に入れようとしたレノボとハイアールも、いまだに成功していない。
いま報道されている買収案件も、失敗する可能性が高い。四川騰中重工機械はGMの「ハマー」ブランドを買収することで暫定合意したが、北京汽車は同じくGMのオペル買収から撤退した。
合併は、当事者の企業が両方とも先進国にある場合でもたいてい失敗する。中国と欧米の間の合併となれば、さらに文化的な衝突のリスクが高まる。だが、ほかの企業がおじけづくことはない。
中国メディアによると、中国の銀行は08年12月以降、企業の事業拡大を支援するために数百億ドルの融資をしたという。「危機が悪化すれば、かつての名ブランドが比較的安い値段で売りに出されるだろう」と、デザインの経済的価値について研究する香港理工大学のジョン・ヘスケット教授は言う。「中国人ビジネスマンはとても現実的だから、ブランド買収の動きがさらに加速するかもしれない」
これが中国人のブランドに対する考え方だ。ブランドはカネで買える資産やノウハウの固まりであり、習得すべき芸術ではない。