最新記事

中国企業

ステルス巨大企業・華為の実力

中国市場の拡大と共に人知れず世界有数の企業にのし上がり、尚も成長を続ける中国大企業は、既存の産業秩序を脅かす存在になりえるか

2009年9月3日(木)16時17分
クレイグ・サイモンズ

秘密主義 通信機器で世界2位をねらう華為の創業者・任は、外国メディアの取材に応じたことがない(02年、華為の東莞工場) Kin Cheung-Reuters

 華為技術(ファーウェイ・テクノロジー)は、知名度の低い企業のなかでは最高の会社かもしれない。それこそが、中国の大きな問題でもある。

 人民解放軍の元将校たちが88年、わずか4000ドルの資本金で始めた小さな輸入業者はその後、08年の売上高が233億ドルを超える巨大な成長企業に変身した。今では通信機器で世界第2位のノキア・シーメンス(1位はエリクソン)を追い越す勢いだ。

 国外の中国専門家は10年も前から、華為は中国初の世界ブランドになる可能性があると褒めちぎってきた。目覚ましい経済発展を遂げた深圳の本社には、ハイテク研究棟や美しい芝生、社員用のプールがあり、まるでシリコンバレーから移植したような趣だ。

 08年12月にビジネスウィーク誌が選んだ「世界で最も影響力がある企業10社」にも、アップルやウォルマート、トヨタ自動車、グーグルなどと共にランクインした。実際、このリストで最も国際的に知られていないのが華為だ。

 中国から一歩外に出ると、社員でさえ会社名を正しく発音できない。正しい発音は「ホアウェイ」だが、「外国人はありとあらゆる読み方をする」と、華為の無線機器のブランド戦略責任者、ロバート・フォックスは言う。

中国指導者にとっては頭痛のタネ

 中国が「世界の工場」と呼ばれるようになって久しいが、そのなかのトップクラスの企業でさえほとんど名前を知られていない。この矛盾は、中国の指導者にとって頭痛の種になっている。

 中国は豊かになり過ぎた。出稼ぎ農民を工場で働かせて欧米や日本、韓国のライバルより安く製品を作って売る、というやり方ではもう2桁成長を続けられなくなっている。衣料品や玩具、家電製品を安く作る仕事は、ベトナムのようにさらに人件費が安い国に移りつつある。

 温家宝(ウエン・チアパオ)首相は今年3月、技術革新で「ブランド製品」を輸出できる中国企業を育成しようと呼び掛けた。つまり、品質と技術力とサービスに対する評価が極めて高く、顧客がその製品に喜んでプレミアムを支払うような企業だ。

 世界的な金融危機で欧米の消費者の需要が減退したことが、そうした危機感に拍車を掛けた。既にそれ以前から中国製品のリコール(回収、無償交換)が相次いで、もっと信頼できる格安製品にシフトする動きも広がっていた。

 4月に広東省を訪問した際、温はこの危機は中国企業が自己革新し世界で勢力を拡大するための好機だと言った。中国政府は国有銀行に、世界市場を視野に入れた企業のために数百億ドルの融資枠を用意するよう指導した。

 だが華為を訪ねると、経営幹部は誰一人として政府の呼び掛けに応じる気などないような気がしてならない。華為は、技術力より価格で競争し、企業相手に製品を販売する、という中国企業の伝統的なやり方で成功してきた。

出たがりジョブズの真逆を行く

 創業者でCEO(最高経営責任者)の任正非(レン・チョンフェイ)は、アップルの出たがりCEOスティーブ・ジョブズとは正反対で、外国メディアの取材に応じたことがない(本誌の取材依頼も断られた)。

 華為製のルーターや電話交換機は、携帯電話大手ボーダフォンなど各国の通信大手に使われており、世界で10億人以上の人々に通信サービスを提供している。地球上の6人に1人が華為の製品を使っている計算だ。だが消費者に直接販売することがめったにないため、中国人以外でそのことを知る一般人はほとんどいない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中