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アメリカ経済企業を破綻に追い込む「空っぽの債権者」
貸し倒れの保険として機能するCDSなど金融技術の発達で、融資先の再建に協力しない「責任感空っぽ」の貸し手が台頭している
ねじれた利害 借り手が破産したほうが儲かることも(ゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファイン最高経営責任者)Larry Downing-Reuters
人々は自らの経済的利益を守るために行動する、というのは経済の重要な前提の一つだ。たとえば、経営難に陥った会社にお金を貸していた人は普通、会社の倒産ではなく存続を願う。そうでなければ、お金が返ってこないからだ。
同様に、会社が連邦破産法11条の適用を申請することも普通、お金を貸している債権者は好まない。彼らの債権をその企業の株式と交換する債務削減策(債務の株式化。自社株を渡す代わりに借金や利息の返済負担が減る)を私的にかつ迅速にまとめるほうを貸し手は好む。11条が適用されて裁判所の管理下で経営を再建することになると、手続きには何年もかかることがあるし、弁護士やコンサルタント、会計士などに支払う手数料で会社の貴重な資産が目減りしてしまうからだ。
だがもし、融資先の会社が破産してくれたほうが儲かると貸し手が出てきたとしたらどうだろう。たとえば、融資先が完全に破綻した場合だけ保険金が下りるという保険に入っていた場合、その貸し手はこれまでとは逆に、会社を破産に追い込もうとするようになるだろう。
近年の金融革新のおかげで、投資家は貸し倒れリスクをヘッジ(回避)したり、貸し倒れに対する保険であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を買うことができるようになったことで、新しいタイプの債権者が表れはじめたらしい。融資先の企業が破滅するように仕向けることで、自らの経済的利益を守ろうとする債権者たちだ。
借り手がつぶれても困らない債権者
テキサス大学法科大学院のヘンリー・フー教授(銀行法)は、新たな金融技術の登場で、債権者や株主の伝統的な行動がどう歪められているかを研究した。彼は、借り手の企業を守ろうとしない債権者を「空っぽの債権者」と名づけた。フーに言わせれば、ゴールドマン・サックスと経営危機に陥った保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)そのがいい例だ。
この春に報じられたところでは、08年秋に公的資金の注入を受けたAIGがその金で借金を返済した取引先の一つがゴールドマンだった。AIGはCDS契約にもとづいて25億ドルの担保を差し入れ、さらにCDSの精算と貸株の返済のために100億ドル超を支払った。
AIGのような経営危機の会社に数十億ドルもの担保を現金で出させれば、財務状態をさらに悪化させてしまうことを普通は懸念する、とフーは言う。その結果、ゴールドマンがAIGに保有する他の債権も無価値になってしまいかねない。
だがゴールドマンは、AIGに対する債権がすべてパアになろうと構わなかった。なぜなら、同社がAIGに保有していた債権は、CDSなどのデリバティブ(金融派生商品)や他の契約を通じてすでに多くがヘッジずみだったからだ。ゴールドマンのCFO(最高財務責任者)に言わせれば、債権は「完全に保護されていて、損失を蒙らなくてもすんだ」。
ゴールドマンはAIGの重要な債権者だったが、AIGがつぶれて債務の返済ができなくなったとしても、失うものは何もないようだった。だからこそ、ゴールドマンはAIGに何十億ドルもの担保を吐き出させることに何の呵責も感じなかった。
経営再建は長期化し高くつくものに
空っぽの債権者は他にも台頭しているようだ。巨額の負債をかかえて経営難に陥っている遊園地運営会社シックス・フラッグスの例を見てみよう。同社経営陣は破産法11条の適用申請を回避しようと必死だ。4月17日には、約6億ドル分の社債を株式60%と交換するという債務の株式化を提案。もし社債を保有する債権者があくまで利息の支払いにこだわれば、破産法11条の申請に追い込まれるかもしれないと言った。
だがワシントン・ポスト紙が報じたところによると、すべての債権者が協力的というわけではないようだ。「シックス・フラッグスの経営幹部は交渉に応じていないのが誰か公にしていないが、関係者によれば、2010年満期の社債1億ドルを保有しているフィデリティ・インベストメンツのファンドらしい」
なぜフィデリティが交渉に応じないのかははっきりしない。シックス・フラッグスにはまだ利息を支払う力があると信じているのかもしれないし、フィデリティがここでは「空っぽの債権者」だからかもしれない。
ワシントン・ポストはフィデリティの行動の説明として、「本質的には保険契約であるCDSを保有していて、(破産によって)私的な再建より大きな保険が支払われることになっている」可能性を挙げる。CDSでは、正式な破産申請があれば損失に対して保険が支払われるが、裁判所外の私的な再建では必ずしも支払われない。従って、この保険を購入した債権者は、破産のほうが得るところが大きいと判断する可能性もある。
英フィナンシャル・タイムズ紙は、4月16日に破産法11条の適用を申請した商業用不動産大手のゼネラル・グロース・プロパティーズや製紙会社アビティビ・ボウォーターの場合も、裏で空っぽの債権者の論理が働いていたかもしれないと報じた。
自分が金を貸している会社の破産を願うからといって、空っぽの債権者を責めることはできない。彼らには、自分の投資に保険をかける先見性があったのだから。だが、経営者や従業員、取引先、顧客などの他の利害関係者にとっては、空っぽの債権者の存在のおかげで再建プロセスは長期化し、高くつくものになるかもしれない。