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豊かなニッポンに支援は不要か

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2011.06.09

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豊かなニッポンに支援は不要か

世界第3の経済大国は自力で復活できる——そんな声も国外から聞こえるが

2011年6月9日(木)09時54分
大橋希、佐伯直美(本誌記者)

 裕福な先進国ニッポンに義援金など必要ない──東日本大震災のニュースが駆け巡るなか、日本国外ではそんな論調の記事がメディアやネットをにぎわせた。ロイター通信は「日本に寄付するな」と題したコラムをサイトに掲載し、「カネが必要なら国内で集めればいい」と言い放った。

 確かに日本は世界第3の経済大国で、ハイチやインドネシアなどの途上国とは事情が違う。フランスやイギリス政府は救助隊派遣や物資援助は行うものの、義援金拠出は見送った。日本ユニセフ協会も当初、寄付金が余った場合は他国での援助に回す可能性があるとしていた(後に撤回し、すべて東日本大震災の被災者支援に使うと表明)。

 ハイチ大地震ではすぐ支援に立ち上がったアンジェリーナ・ジョリーやジョージ・クルーニーら欧米の大物セレブも、今回は何の動きも見せていない。

 日本は本当に助けを借りなくても難なく復活できるのか。答えはノーだ。東日本大震災は、日本に限らずいかなる先進国でも立ちすくむ未曾有の試練。地震、大津波、原発事故の三重苦からの復興の道は、気が遠くなるほど果てしない。政府の推計では東日本大震災の被害総額は16兆〜25兆円と、阪神淡路大震災の約10兆円を大幅に上回る。

 警察庁によれば3月25日時点で、避難所で暮らす市民は24万人を超える。1日も早い仮設住宅の建設を求める声もあるが、津波により広範囲にわたって根こそぎ破壊された地域社会が、再び機能するようになるまでの時間も費用も計り知れない。

 復興に向けたスタート地点に立つ以前にも、遺体の収容や瓦礫の除去、ライフラインの復旧など、解決しなければならない問題が山積している。「阪神淡路大震災のときとはまったく違う」と、04年のスマトラ沖地震・インド洋津波や阪神淡路での支援活動経験がある青山学院大学大学院の塚本俊也教授は言う。「今回の津波の破壊力はすさまじい。スマトラ島と同じような状況を日本で見るとは思わなかった」

先進国ならではの問題も

 そんななか、国内外から集まる寄付金が余る事態があり得るのか。義援金は通常、各県が主体となる義援金配分委員会を通じて被災者に直接届けられる。1世帯当たりの義援金受取額は北海道南西沖地震で2519万円、新潟県中越地震で216万円だったが、被災者数が多かった阪神淡路は40万円と少なかった。東日本大震災の被害規模を考えれば、どれほど多くの義援金が集まっても十分とは言えないかもしれない。

 また、今回の震災では先進国ならではの問題も生じている。大災害が起きた際、被災の現場には医療救援団体から民間ボランティアまでさまざま支援組織が集まってくる。そんななかでは地域全体の状況を把握し、人員や物資を無駄なく配分できるよう調整する組織が不可欠だ。

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