最新記事

ノーベル平和賞で中国は目覚めるか?

中国vs世界

権益を脅かす者には牙をむく
新・超大国と世界の新しい関係

2010.10.26

ニューストピックス

ノーベル平和賞で中国は目覚めるか?

劉の受賞によって、過去10年以上で中国が経験したことのない広範な民主化議論が巻き起こる可能性もある

2010年10月26日(火)12時08分
アイザック・ストーン・フィッシュ(北京特派員) ダンカン・ヒューイット(上海特派員)

 ノーベル平和賞受賞が決まった中国の人権活動家、劉暁波(リウ・シアオポー)は89年の天安門事件後も民主化を訴え続け、表現の自由と人権拡大を求めて08年に発表された「08憲章」の中心的な起草者となった。北京駐在のある欧米外交官は、劉を「中国で進行しているすべての事象を体現する人物」と評する。

 劉の受賞で中国政府が恐れているのは、教養ある中国のエリート層の間で政治的議論が再び活発になること。過去20年間、その動きを抑え付けようと四苦八苦してきた政府は、平和賞の授与決定を「暴挙」と非難している。

 国内にさまざまな不安定要因を抱える中国の指導者は、政府の権威を脅かそうとする諸外国の動きに神経をとがらせている。今回の平和賞は、天安門事件以降で最も直接的な中国政治に対する国際社会からの介入と言える。89年当時、各国政府は中国との首脳レベルの外交関係を断ち、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世にノーベル平和賞が授与された。

 劉が選ばれた背景には、遅れている中国の政治改革に世界の目を向けさせる狙いがありそうだ。中国政府は20年間、この問題を隠し続けてきた。ノーベル賞委員会のヤーグラン委員長は、中国で何が起きているかを注視し、「中国にどうなってもらいたいか」を議論することが国際社会にとって必要だと語る。国内問題に対する外国からの介入に神経質な中国が、こうしたコメントに激怒しているのは間違いない。

 対外的には劉の受賞を非難してみせた中国政府だが、本当に難しいのは国内でこの問題をどう扱うかだ。当局はネット検閲によって劉の名前の検索をブロックし、一部の外国メディアのウェブサイトにアクセスすることを禁じて、受賞のニュースが広まるのを防ごうと躍起になっている。警察が受賞を祝う行事を開催しようとした人々を摘発し、劉の妻を外国メディアから遠ざけるために自宅から連れ出そうとしたとの報道もある。

 中国政府は今後、劉とノーベル賞委員会を非難し、08年のチベット騒乱のときのように「すべては反中国の陰謀だ」という宣伝を展開するだろう。しかしそれによって、劉と彼が唱える民主化への要求は「08憲章」を発表したときよりはるかに多くの注目を集めそうだ。過去10年以上で中国が経験したことのないほど広範な、民主化議論が巻き起こる可能性もある。

[2010年10月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク

ワールド

アングル:ロシア社会に迫る大量の帰還兵問題、政治不

ワールド

カーク氏射殺、22歳容疑者を拘束 弾薬に「ファシス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中