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ノーベル平和賞で中国は目覚めるか?
劉の受賞によって、過去10年以上で中国が経験したことのない広範な民主化議論が巻き起こる可能性もある
ノーベル平和賞受賞が決まった中国の人権活動家、劉暁波(リウ・シアオポー)は89年の天安門事件後も民主化を訴え続け、表現の自由と人権拡大を求めて08年に発表された「08憲章」の中心的な起草者となった。北京駐在のある欧米外交官は、劉を「中国で進行しているすべての事象を体現する人物」と評する。
劉の受賞で中国政府が恐れているのは、教養ある中国のエリート層の間で政治的議論が再び活発になること。過去20年間、その動きを抑え付けようと四苦八苦してきた政府は、平和賞の授与決定を「暴挙」と非難している。
国内にさまざまな不安定要因を抱える中国の指導者は、政府の権威を脅かそうとする諸外国の動きに神経をとがらせている。今回の平和賞は、天安門事件以降で最も直接的な中国政治に対する国際社会からの介入と言える。89年当時、各国政府は中国との首脳レベルの外交関係を断ち、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世にノーベル平和賞が授与された。
劉が選ばれた背景には、遅れている中国の政治改革に世界の目を向けさせる狙いがありそうだ。中国政府は20年間、この問題を隠し続けてきた。ノーベル賞委員会のヤーグラン委員長は、中国で何が起きているかを注視し、「中国にどうなってもらいたいか」を議論することが国際社会にとって必要だと語る。国内問題に対する外国からの介入に神経質な中国が、こうしたコメントに激怒しているのは間違いない。
対外的には劉の受賞を非難してみせた中国政府だが、本当に難しいのは国内でこの問題をどう扱うかだ。当局はネット検閲によって劉の名前の検索をブロックし、一部の外国メディアのウェブサイトにアクセスすることを禁じて、受賞のニュースが広まるのを防ごうと躍起になっている。警察が受賞を祝う行事を開催しようとした人々を摘発し、劉の妻を外国メディアから遠ざけるために自宅から連れ出そうとしたとの報道もある。
中国政府は今後、劉とノーベル賞委員会を非難し、08年のチベット騒乱のときのように「すべては反中国の陰謀だ」という宣伝を展開するだろう。しかしそれによって、劉と彼が唱える民主化への要求は「08憲章」を発表したときよりはるかに多くの注目を集めそうだ。過去10年以上で中国が経験したことのないほど広範な、民主化議論が巻き起こる可能性もある。
[2010年10月20日号掲載]