最新記事

日中激突時代のプレリュード?

中国vs世界

権益を脅かす者には牙をむく
新・超大国と世界の新しい関係

2010.10.26

ニューストピックス

日中激突時代のプレリュード?

尖閣諸島で起きた漁船衝突事件の背景には東アジアのパワーシフトがある

2010年10月26日(火)12時01分
ジョナサン・アダムズ(ジャーナリスト)

 台湾の北東に位置するいくつかの無人島をめぐって世界第2の経済大国・中国と第3の経済大国・日本の間で緊張が高まっている。

 これは来るべき時代の予告編なのかもしれない。大半の専門家が見るとおり、今回の出来事が重大な危機に発展するとは考えづらい。日本と中国の経済的な相互依存関係は、かつてなく深まっている。しかし、中国の台頭により東アジアのパワーバランスは変わりつつある。それに伴い、日中の関係が領土をめぐり緊迫することは珍しくなくなるだろう。

 始まりは9月7日。日本と中国と台湾が領有権を主張している東シナ海上の島の沖合で、中国の漁船と日本の海上保安庁の巡視船が衝突したことだった。

 日本の当局が中国船の船長を逮捕・送検すると、中国側は強く反発。9日には、外務省の姜瑜(チアン・ユィ)報道官が日本の対応を「荒唐無稽で違法で無効」と批判。「事態のエスカレートを避けるために、日本側は直ちに乗員と漁船を解放すべき」だと要求した。「正しい対応がなされなければ、両国関係全般に重大な影響を与える恐れがある」と、姜は述べた。

 8日には、北京の日本大使館前で30人ほどの中国のナショナリストが抗議活動を実施。中国メディアも衝突事件のニュース一色になった。9日には、逮捕された船長の祖母が心労で急死したというニュースも報じられた。

 舞台は日本では尖閣諸島、中国では釣魚島、台湾では釣魚台と呼ばれる島々だ。いずれも無人島だが、近くの海底に石油や天然ガスが埋蔵されているため、戦略上の重要性が高い。

東アジアの「漁業戦争」

 日中台はいずれも領有権を主張しているが、最も強い実効支配を確立しているのは日本だ。72年に沖縄がアメリカから返還されて以降、海上保安庁がパトロールを実施してきた。一部の島には、日本の右翼団体が日本の領有権をアピールするために建てた灯台もある。

 この島々の領有権争いは、ずっと大きな問題に発展せずにいた。日中台いずれも、もっと重視している事柄があったからだ。しかし、今回の出来事に中国が強い態度で臨んでいるように、中国がさまざまな地域で領有権の主張を強めるなかで、強硬な言動の応酬が目立ち始めたと、アジアの安全保障と中国事情に詳しいジャーナリストのウィリー・ラムは指摘する。

 「中国政府の狙いは、領土問題に関してこれまでより積極的に行動していく方針を印象付けることにある。これは釣魚島(尖閣諸島)だけでなく、(領有権が争われている南シナ海の)南沙諸島(スプラトリー諸島)と西沙諸島(パラセル諸島)にも当てはまる」と、ラムは言う。「中国政府は強い姿勢を見せつけたいと思っている」

 中国には、日本政治の「準真空状態」に付け込もうという思惑もあるのかもしれないとも、ラムは述べている。彼の眼には、9月14日の民主党代表選を控えて、日本政治の「舵取り役を誰も担っていないように見える」

 今回の対立を理解する上でもう1つ重要な点は、中国が漁業超大国として台頭してきたという事実だ。米海軍大学のライル・ゴールドスタイン准教授が09年に発表した論文によれば、中国の07年の時点の総漁獲高は1700万トン。この数字は、日本とアメリカのいずれよりも多い。

 中国ではおよそ30万隻のエンジン付き漁船が操業していて、アメリカ海軍やインドネシアの沿岸警備隊、日本の海上保安庁との間でいざこざを起こしている。その一方で中国漁政指揮センター(沿岸警備隊に相当)は、南シナ海でベトナム漁船を拿捕するなど、次第に強硬路線を強めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中