最新記事

ゼロからわかるアメリカ中間選挙

ティーパーティーの正体

アメリカ政治を脅かす怒れる民衆
中間選挙の行方は彼らの手に

2010.10.13

ニューストピックス

ゼロからわかるアメリカ中間選挙

「期待外れ」のオバマは生き残れるか。アメリカ政治の行方を左右するビッグイベントを解説

2010年10月13日(水)12時04分
小暮聡子(本誌記者)

 11月2日に行われる中間選挙は、「希望」に沸いた2年前の大統領選とは打って変わって「失望」に包まれたダークな選挙になりそうだ。今のアメリカはまるで、新政権への期待が裏切られた東アジアの某国のよう。国民の間に政治不信が広がり、中間選挙は民主党と共和党が「どちらがより不人気か」を争うレースになりそうなのだ。

 中間選挙は、任期中の大統領を国民が評価する機会でもある。つまり今年の中間選挙は、バラク・オバマ大統領に対する国民の「信任投票」。結果次第では、2年後の大統領選でオバマにサヨナラ、という可能性だってある。

 そんな大事な選挙を控えて、不人気争いの矢面に立っているのがかつての英雄、オバマだ。就任当時の68%の高支持率は、48%まで急降下。イラクとアフガニスタンという2つの戦争、イランと北朝鮮の核問題、中東和平交渉など外交問題も山積みだが、人気ガタ落ちの主な原因は、何といっても国内政策----特に雇用問題と医療保険制度改革だ。

 オバマが大統領になればどん底の経済が回復する。そう期待した国民は、10%付近で高止まりする失業率に意気消沈。メディアが景気の回復傾向を伝えようとも、総額7870億ドルの景気刺激策が家計を助けたという実感もゼロ。自分たちの税金は金融危機を招いた戦犯たちの巨額ボーナスに使われただけだと、怒りを隠せない。

 さらにオバマに対する不信感を高めたのが、3月23日に成立した医療保険制度改革法だ。確かに、過去に何人もの大統領が目指しては挫折してきた改革を実現にまでこぎ着けたというオバマの「偉業」は、歴史には残るだろう。だが今のアメリカではこの制度に対する不支持が支持を上回り、制度の是非をめぐってイデオロギー戦争が勃発している状態だ。

ティーパーティーの反乱

 もともと、アメリカの国民は国民皆保険制度のような「大きな政府」を社会主義的としてアレルギー反応を起こす傾向がある。「小さな政府」志向の共和党はジョン・ベーナー下院院内総務などを中心に、オバマが提案した医療保険制度改革案(オバマケア)に猛反発。社会主義だ、増税だ、というネガティブキャンペーンを展開し、「生きるか死ぬかを政府が管理することになる」という風評で国民を震え上がらせてきた。

 オバマはこの問題にかかりきりで移民や地球温暖化問題を棚上げにした上、法案可決に向けて共和党に譲歩を重ね、熱狂的支持層のリベラル派まで幻滅させた。下院の共和党議員が全員反対に回るなか、オバマが例外的な手続きを使って強行突破で可決させたことも国民の不信をあおった。最近は反対派が過激化し、法案可決の立役者であるナンシー・ペロシ下院議長とハリー・リード民主党上院院内総務という議会の民主党トップ2人から「国を取り返せ」とバッシングしている。

 一方の共和党も、民主党の支持率低下を取り込めていない。民主党のやることすべてに反対するだけの「ノーの党」と皮肉られ、独自な要素を打ち出せずにいる。

 中間選挙で共和党の命運を決めるのが「ティーパーティー」の存在だ。この草の根の保守系ネットワークは今年1月、医療保険制度改革に反対する共和党議員がマサチューセッツ州の上院補欠選挙で、民主党の歴史ある議席を奪うという「マサチューセッツの奇跡」を起こした。「大きな政府」「増税」「支出拡大」、そしてこの三拍子がそろった(と信じている)「オバマケア」を憎み、共和党保守派の代表格であるサラ・ペイリン前アラスカ州知事を広告塔に立て、再選が危ぶまれるリードなどの民主党議員を引きずり降ろそうとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏当局、ディープシークに質問へ プライバシー保護巡

ビジネス

ECB総裁、チェコ中銀の「外貨準備にビットコイン」

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想上回る 年末

ワールド

米首都近郊の旅客機と軍ヘリの空中衝突、空域運用の課
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中