最新記事

【7】成長率8%で中国失速の嘘。

ウラ読み世界経済ゼミ

本誌特集「世界経済『超』入門」が
さらによくわかる基礎知識

2010.04.12

ニューストピックス

【7】成長率8%で中国失速の嘘。

2010年4月12日(月)12時08分

中国では今、経済成長率の「8%維持」を意味する「保八(パオパー)」という言葉が飛び交っている。中国と世界経済の今後を占うキーワードだ。先進国のマイナス成長が予測されるなか、温家宝(ウエン・チアパオ)首相は3月の全国人民代表大会(国会に相当)で09年成長率の「8%死守」を宣言し、国際的な期待が集まっている。

 中国経済は経済開放を始めた78年以降、07年まで平均9・9%という高成長率を維持してきた。だが、中国経済を支えてきた対外輸出の見通しは暗く、「生命線」とされる8%維持は難しそうだ。それでも、よく言われるように「8%を下回ると中国社会が不安定化する」と考えるのは短絡的だ。

 中国で雇用を拡大し、国民の収入を増やすために必要な最低限の成長率とされるのが8%だが、元シティグループのアナリスト黄益平(ホアン・イーピン)によれば、その根拠の1つは中国で毎年純増する労働力が800万人に上るという過去のデータにある。毎年8%成長しなければこの労働力を吸収できず、失業者が増え消費が減り、社会不安が増すというわけだ。

 ただ黄によると、毎年800万人も新しい労働力が増えていたのは90年代。人口の高齢化と1人っ子政策によって、01年以降の10年間は年平均500万人前後に減っている。とすれば成長率は5〜6%あれば十分だ。「8%維持は一種の迷信だ」と、黄は中国誌「財経」ネット版で書いている。「理論的根拠がなく実証もされていない。8%を下回ったとしても天が落ちてくるわけではない」

 中国は97年のアジア通貨危機後にも8%割れを経験したが(98年7・8%、99年7・6%)、この2年間の農民と都市住民の所得の平均伸び率は4%と7・5%。通貨危機の前後で大きな変化はなかった。都市住民の失業率も97年から00年まで3・1%と横ばい(農村はデータなし)。消費支出は農村が年平均1・5%減だったが、都市は5・5%増で、国有企業のリストラが始まった時期を、大きな社会不安無しで乗り切った。

「GDP成長率と庶民の生活は必ずしも相関関係にない」と、経済シンクタンク「北京大軍経済観察センター」主任の仲大軍(チョン・ターチュン)は言う。世界が注目する「8%」という数字は、実は幻かもしれない。 

[2009年4月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中