最新記事

知られざる在日米軍の素顔<br>第1章──野営と実弾訓練とハンバーガー

在日米軍の真実

海兵隊の密着取材で見た
オキナワ駐留米兵の知られざる素顔

2010.03.31

ニューストピックス

知られざる在日米軍の素顔
第1章──野営と実弾訓練とハンバーガー

「レイプ」や「ヘリ墜落」でのみ語られる沖縄の兵士たち
極東の楽園でイラクや北朝鮮の幻影と戦う彼らの真実とは

2010年3月31日(水)12時05分
横田 孝(本誌記者)

戦闘に備えて 実戦を想定した地雷爆破訓練の様子(キャンプ・シュワブ) Peter Blakely-Redux


普天間基地の移設問題で、在日米軍の存在が再び問われている。沖縄での犯罪や事故といった問題のみがクローズアップされてきた在日米軍だが、彼らの勤務実態や日々の生活はあまり伝えられない。米軍再編交渉を目前にした2005年春、海兵隊の野営訓練から米空軍F15戦闘機飛行訓練まで、本誌記者が4か月に渡る密着取材で見た在日米軍の本当の姿とは──。


 米軍の兵士は、母国では英雄としてたたえられる。だが最近では、海外で任務に就く米兵たちが感じる視線は冷たいものだ。アフガニスタンとイラクの戦争、アブクレイブ刑務所での捕虜虐待問題などのスキャンダルを経験して、「米兵」という言葉に世界の人々がいだく印象はすっかり変わってしまった。

 米軍と米兵の国際的イメージは悪くなる一方だ。02年、韓国では在韓米軍車両による少女2人の死亡事故をきっかけに、大規模な抗議デモが発生。05年3月には、イラクでイタリアの情報機関職員が米兵の誤射で死亡する事件があり、イタリア国民の怒りを買った。このような事件が起きると、メディアは大々的に取り上げる。米兵のなかには、それにいらだちを隠さない人たちもいる。「メディアは本当にムカつく!」と、05年3月半ばに話を聞いたある海兵隊員は軍用車両の中でぶちまけた。「俺たちのやることに全部ケチをつけやがる! 命を張っているのに、冗談じゃねぇってんだよ!」

 日本での米軍のイメージが悪いのは、今に始まったことではない。第二次大戦後、米軍は日本の安全保障の柱として駐留を続けてきた。沖縄本島には現在、37の米軍施設があり、約5万人の米兵と家族が生活している。米軍機の墜落事故も繰り返されてきたし、近隣住民への騒音被害もなくならない。72年の沖縄返還の後だけでも、米兵がらみの刑事事件は5300件を超える。

 沖縄の住民は今、駐留米軍の規模が縮小されるという期待に賭けている。もっとも日本にとって、在日米軍の戦略的価値は下がっていない。中国の急激な軍備増強を考えると、日本は今後もアメリカの軍事力に頼ることになる。アメリカにとっても、中国の潜在的脅威を封じ込めるために、日本の力がますます必要になる。

 こうした議論をよそに、沖縄の米兵たちの素顔と本音はほとんど知られていない。95年の海兵隊員による少女暴行事件に始まり、昨年の沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故にいたるまで、日本の報道は在日米軍を巨大な怪物のように描いてきた。事件を起こした兵士に厳しい批判が浴びせられるのは当然だが、それ以外の大多数の兵士は光を当てられることもなく、単に「米兵」とひとくくりにされてきた。

 政治家や学者と同じ視点から見るだけでは、在日米軍の本当の姿はわからない。本誌は05年3月から数回にわたり、沖縄の海兵隊部隊と空軍の戦闘機パイロットに密着した。海兵隊員と共に訓練場で野営し、F15戦闘機の訓練に同乗し、勤務時間外の日常をつぶさに観察することで、兵士たちの思いや生活の「真実」が見えてきた。

 「ぐずぐずするな!」

 作業の遅れている隊員に、ジョン・ハンド上等兵の罵声が飛ぶ。

 午前6時30分。沖縄本島北部名護市にあるキャンプ・シュワブの第3海兵師団戦闘強襲大隊本部。防弾チョッキにヘルメット、M16自動小銃を装備した戦闘工兵中隊・第2小隊が訓練に向かおうとしていた。18人の隊員たちは、トラックに弾薬や野戦食を積み込んでいく。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英政府、中国大使館建設計画巡る決定を再び延期 12

ビジネス

米銀、アルゼンチン向け200億ドル融資巡り米財務省

ワールド

インド、すでにロシア産石油輸入を半減=米ホワイトハ

ワールド

マレーシアGDP、第3四半期速報は前年比+5.2%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中