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白化する死のサンゴ礁の警告
すでに世界に生息する資源のおよそ3割は回復不可能な状態に
色とりどりの美しさと、そこにすむ生物の多様さから、サンゴ礁は「海の熱帯雨林」と呼ばれることが多い。「海の建築家」と呼んでもいい。小さなポリプ(サンゴ虫)の群れが、海水中から吸収した炭酸カルシウムをせっせと積み上げて壮大な建築物を作る。
サンゴ礁は地球表面のわずか1%しか占めていないが、そこには海洋生物の25%がすむとみられる。まさに海中の大都会だ。
この大都会の建築家が危機に直面している。気候変動の影響が海底にまで及ぶとは想像しにくいかもしれない。だが最近の調査で、地球温暖化がサンゴ礁を直撃していることが明らかになった。すでにサンゴ礁のおよそ30%は回復不可能な損傷を受けている。海面の水温上昇でサンゴが栄養を得にくくなったことが主な原因だ。
セーシェル諸島のサンゴ礁は、98年のインド洋の異常高温で破壊され、今も回復していないという調査結果もある。そこでは10種の魚が絶滅あるいは絶滅寸前に追い込まれ、海洋生物の種類も半減した。サンゴ礁が死ねば、海も死ぬ。
大気中の二酸化炭素も影響
サンゴは、動物の体内に植物が共生するという変わった「ペア」を組んで生きている。動物は小さなポリプ。植物はそれよりさらに小さな褐虫藻で、光合成でつくり出したエネルギーを宿主に分け与え、サンゴを鮮やかな色で彩る。
この共生から生まれるエネルギーがサンゴ礁の建築に使われる。海水中の炭酸とカルシウムが化学反応で結合し、石灰質のサンゴの殻となる炭酸カルシウムがつくられる。しかし、水温が上がると共生関係は崩れる。褐虫藻がポリプの体から追い出され、サンゴは白化して死んでしまう。
問題はそれだけではない。大気中の二酸化炭素の増加で海水の酸性化が進むことが、水温の上昇以上に海を脅かしていると、多くの専門家が警告する。
大気中の二酸化炭素は、海水に溶けると炭酸に変わる。その炭酸がカルシウムと結びついて、サンゴ礁の建材となる。だが二酸化炭素の濃度が高すぎると、海水の酸性化が進み、サンゴの殻が溶けてしまう。今では工業化以前の時代と比べ、海水の酸性化が30%も進んでいる。
「健康診断で血圧がはね上がったようなものだ」と、H・ジョン・ハインツ科学経済環境研究所(ワシントン)のトーマス・ラブジョイ所長は言う。ラブジョイは海水の酸性化を「最も深刻な環境問題」と呼ぶ。
皮肉な話だ。余分な熱や炭素を吸収する海は、温暖化の進行を食い止めると長い間考えられてきた。その頼みの綱である海でさえ、今や助けを求めている。
[2006年11月15日号掲載]