最新記事

白化する死のサンゴ礁の警告

マグロが消える日

絶滅危惧種指定で食べられなくなる?
海の資源激減を招いた「犯人」は

2010.03.11

ニューストピックス

白化する死のサンゴ礁の警告

すでに世界に生息する資源のおよそ3割は回復不可能な状態に

2010年3月11日(木)12時02分
マック・マーゴリス

 色とりどりの美しさと、そこにすむ生物の多様さから、サンゴ礁は「海の熱帯雨林」と呼ばれることが多い。「海の建築家」と呼んでもいい。小さなポリプ(サンゴ虫)の群れが、海水中から吸収した炭酸カルシウムをせっせと積み上げて壮大な建築物を作る。

 サンゴ礁は地球表面のわずか1%しか占めていないが、そこには海洋生物の25%がすむとみられる。まさに海中の大都会だ。

 この大都会の建築家が危機に直面している。気候変動の影響が海底にまで及ぶとは想像しにくいかもしれない。だが最近の調査で、地球温暖化がサンゴ礁を直撃していることが明らかになった。すでにサンゴ礁のおよそ30%は回復不可能な損傷を受けている。海面の水温上昇でサンゴが栄養を得にくくなったことが主な原因だ。

 セーシェル諸島のサンゴ礁は、98年のインド洋の異常高温で破壊され、今も回復していないという調査結果もある。そこでは10種の魚が絶滅あるいは絶滅寸前に追い込まれ、海洋生物の種類も半減した。サンゴ礁が死ねば、海も死ぬ。

大気中の二酸化炭素も影響

 サンゴは、動物の体内に植物が共生するという変わった「ペア」を組んで生きている。動物は小さなポリプ。植物はそれよりさらに小さな褐虫藻で、光合成でつくり出したエネルギーを宿主に分け与え、サンゴを鮮やかな色で彩る。

 この共生から生まれるエネルギーがサンゴ礁の建築に使われる。海水中の炭酸とカルシウムが化学反応で結合し、石灰質のサンゴの殻となる炭酸カルシウムがつくられる。しかし、水温が上がると共生関係は崩れる。褐虫藻がポリプの体から追い出され、サンゴは白化して死んでしまう。

 問題はそれだけではない。大気中の二酸化炭素の増加で海水の酸性化が進むことが、水温の上昇以上に海を脅かしていると、多くの専門家が警告する。

 大気中の二酸化炭素は、海水に溶けると炭酸に変わる。その炭酸がカルシウムと結びついて、サンゴ礁の建材となる。だが二酸化炭素の濃度が高すぎると、海水の酸性化が進み、サンゴの殻が溶けてしまう。今では工業化以前の時代と比べ、海水の酸性化が30%も進んでいる。

「健康診断で血圧がはね上がったようなものだ」と、H・ジョン・ハインツ科学経済環境研究所(ワシントン)のトーマス・ラブジョイ所長は言う。ラブジョイは海水の酸性化を「最も深刻な環境問題」と呼ぶ。

 皮肉な話だ。余分な熱や炭素を吸収する海は、温暖化の進行を食い止めると長い間考えられてきた。その頼みの綱である海でさえ、今や助けを求めている。

[2006年11月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中