最新記事

チベットを担う若きリーダー

編集者が選ぶ2009ベスト記事

ブッシュ隠居生活ルポから
タリバン独白まで超厳選

2009.12.15

ニューストピックス

チベットを担う若きリーダー

「カルマパ17世というダライ・ラマ14世の『後継者』へのインタビューを中心に据えた記事。インタビュー自体がスクープであるのはもちろん、なかばタブー視されている『ダライ・ラマ後』のチベットの方向性についても掘り下げている」(本誌・長岡義博)

2009年12月15日(火)12時04分
パトリック・シムズ(ジャーナリスト)

「ダライ・ラマはもはやチベット問題の最重要人物でないことをうまく伝えている。しつこい取材で中国の『裏取引』を暴露したのも見事」(本誌・竹田圭吾)



カリスマの資質 チベット人だけでなく外国人信者からも高く支持されるカルマパ17世(09年3月) Abhishek Madhukar-Reuters


「ダライ・ラマ後」の空白が迫るなか、摂政就任説が流れる23歳のカルマパ17世が、独占インタビューで語ったチベットの未来とは

 カルマパ17世はチベット仏教の活仏でありながら、好青年の雰囲気も漂わせている。赤と金色の装束に身を包み、毅然とした態度のカルマパは行く先々で最敬礼で迎えられる。中国語とチベット語を流暢に操り、夜は韓国語を勉強している。外国人記者に対しては、控えめな憤りを英語で表現することもある。

 インド東部のブッダガヤ郊外にある僧院で暮らすカルマパは夕暮れ時、日課の合間に外に姿を現す。テラスをゆっくり歩きながら、麦畑で農作業をする女性たちに目をやる。

 23歳のハンサムなカルマパ17世は、85年に遊牧民の父母の間に誕生。81年に亡くなったカルマパ16世の生まれ変わりとして、チベット東部で僧侶に見いだされた。7歳で活仏となり、チベット仏教カギュ派の指導者に就任した。14歳でチベットを脱出し、雪中亡命劇を敢行。ネパールからインドへ渡り、亡命中のチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世のもとに身を寄せた。

 亡命チベット人はすぐにカルマパの特別な才覚を見いだした。ダライ・ラマと同様のカリスマ性をもち、若者らしい活力に満ちている。指導者の適性をもつ人物という評判が早くから広まった。

 現存する活仏のなかにはダライ・ラマに匹敵する者はいない。彼は最大宗派ゲルク派の指導者で、チベットの人々に敬われあがめられている。ノーベル平和賞を受賞し、たぐいまれな精神力で世界中の人々の尊敬を集める人物だ。ダライ・ラマはチベット仏教の各宗派と亡命チベット人の組織を、チベットの大義という旗の下でなんとか結束させている。

 そんなダライ・ラマでさえ解決できていない重大な問題が一つある。チベットの高度の自治と文化的な自由というダライ・ラマの穏健な要求に対して、中国政府が耳を貸そうとしないことだ。今年3月でダライ・ラマがインドに亡命してから50年になる。ダライ・ラマでも解決がむずかしい問題をカルマパなら解決できると期待する人たちもいる。ただしそれは、チベットの伝統や慣習に反してカルマパが最高指導者になった場合の話だ。

亡命勢力は瓦解に向かう運命?

 ダライ・ラマの後継者選びは微妙な問題をはらんでいる。現在73歳のダライ・ラマは最近、軽い健康問題を乗り越えた。だが自身の後継者問題を深く憂慮し、チベット亡命政府に対策を講じるよう指示している。

 チベットの伝統では、ダライ・ラマは自分の生まれ変わりを後継者にする。僧侶が占いや夢、自然現象などを解釈し、生まれ変わりの赤ん坊を探しあてる。しかし、その生まれ変わりが十分な教育を受け、指導者が務まるとみなされる成人に成長するまでには約20年かかる。中国がなんとしてもつぶしたいと思っている現在のチベット人組織は、20年の空白期間を乗り切れないだろう。

「中国の強硬派は、ダライ・ラマが死亡したらチベットの政治運動は衰退するか瓦解するとみている」と、ハーバード大学法科大学院のロブサン・サンゲイ上級研究員は言う。ロブサンは昨年11月、亡命チベット人がインドのダラムサラで今後の方針などを話し合うために開いた会議に出席した。「重要なのはすぐにダライ・ラマの後継者になれる人物を探せるかどうか。彼の死後、チベットの政治運動はどうなるのか? これは非常に大きな問題だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米国に抗議 台湾への軍用品売却で

ワールド

バングラデシュ前首相に死刑判決、昨年のデモ鎮圧巡り

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機100機購入へ 意向書署名とゼ

ビジネス

オランダ中銀総裁、リスクは均衡 ECB金融政策は適
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 5
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中