最新記事

マイケル・ジャクソン(アメリカ/ミュージシャン)

今年を駆け抜けた人に
さようなら

世界に大きな影響を与えた
著名人・スターの軌跡

2009.12.08

ニューストピックス

マイケル・ジャクソン(アメリカ/ミュージシャン)

スキャンダルにまみれたポップの帝王を失って初めて、アメリカは気付いた。彼に対する深い愛に、そして彼の存在の大きさに——。

2009年12月8日(火)12時16分
ローレン・アリ

 50歳からの復活に、マイケル・ジャクソンは懸けていた。かつて時代のアイドルだったアーティストは、スキャンダルにまみれた10年余の沈黙を経て「THIS IS IT!(これが最後だ)」と題するコンサートツアーを仕掛け、6月25日に最悪かつ絶妙な死を迎える直前までリハーサルに励んでいた。

 ツアーはロンドンのO2アリーナで今年7月に幕を開け、来春までかけて50回行われる予定だった。もちろん、チケットはすべて売り切れていた。このツアーを、マイケルは「最後のカーテンコール」と呼んでいた。つまり、これが最後のライブということ。でも、それだけではなかった。最後の最後に、マイケルは自分の真実をさらけ出し、みんなに(とりわけ祖国アメリカのみんなに)昔のことを思い出してほしかったのだ。何十年か前に、みんながマイケル・ジャクソンを好きになった本当の訳を。

 思えば90年代の初めから、マイケルとアメリカの仲はこじれていた。地球上のほとんどの国と地域では依然として「ポップの王様」だったが、祖国でのマイケルは裸の王様だった。どんどん奇怪になっていくその容姿と行動、そして繰り返される児童虐待疑惑。芸能メディアの格好の餌食だ。

 私たちが若かった頃は最高のショーマンで、みんながまねたがったスーパースターのマイケル。そのマイケルが、気が付けばマスクで顔を隠さなければ外出できず、世間に背を向けて暮らす「変人」になっていた。70年代と80年代に私たちを魅了した素晴らしい才能の持ち主と、最近はゴシップ欄をにぎわすだけの痛々しい中年男。2つのイメージはどうにも重ねづらい。

 だが、ライブであれ往年の音楽番組『エド・サリバン・ショー』のDVDであれ、衛星テレビやインターネットの有料コンテンツであれ、一度でもマイケルのステージを見たことがある人なら分かるはずだ。彼がステージに立った瞬間に、すべてのスキャンダルは吹き飛ぶ。

鋭すぎる感受性があだになった

 マイケルは、私たちが幸運にも目にすることのできたスターたちのなかでも最高のエンターテイナーだった。流れるような動き、客席を1つにするカリスマ性、そしてこの上なく繊細なあの声......。そのすべてが、観客をとりこにした。マイケルが再び人々の心をつかむには、もう一度ステージに立つしかなかった。しかし、行く手には高い壁が立ちはだかっていた。それは、ある程度までマイケル自身が築いてきた壁と言っていい。

 例えば、あの容貌(鼻はどんどん細く、肌はどんどん白くなっていた)。あの不可解な行動(高圧酸素室で寝ているとか、病気で奇怪な風貌となったエレファントマンの遺骨を買おうとしたという噂など)。少年に対する性的虐待の容疑で11年間に2度告訴されたこと。その過程では薬物に慰めを求めたかもしれない。地に落ちた偶像がアメリカの大衆の心を再びつかむには、奇跡を起こすしかなかった。

 マイケル自身、神々のくれた幸運が底を突きかけていると感じていたのだろう。だから最後のツアーは(アメリカではなく)イギリスで行うことにした。丸1年、中東のバーレーンに住んだことや、亡くなる前の数カ月間、ロサンゼルスの自宅にほとんど引き籠もって過ごしたことも、それで説明がつく。

 どうすれば、もう一度アメリカ人に受け入れてもらえるのか。マイケルは悩んだ。彼ほどのアーティストになると、何事にも過剰なくらい敏感で、俗人には想像もつかないほど広く深く、周囲の人の反応を感じ取れるものだ。もちろん、その感覚の鋭さは歌手マイケルの強みとなった。彼がわずか10歳で屈折した思いを表現できたのも、そのおかげだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍がホルムズ海峡封鎖へ、イランは交渉に戻る見通し

ワールド

ロシア・ウクライナ復活祭停戦、発効数時間で双方が違

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 2
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 3
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 6
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 10
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中