最新記事

EUを揺さぶる東欧クライシス

岐路に立つEU

リスボン条約発効、EU大統領誕生で
政治も統合した「欧州国家」に
近づくのか

2009.10.23

ニューストピックス

EUを揺さぶる東欧クライシス

「東」では国家破綻の危機が迫り「西」の銀行には東欧向け不良債権がのしかかる。今は東の仲間をデフォルトから救うときだ

2009年10月23日(金)12時45分
シュテファン・タイル(ベルリン支局)、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局)

 あのときに不気味なほど似ている。1931年、世界中の銀行にデフォルト(債務不履行)の連鎖をもたらして大恐慌を泥沼化させたのは、オーストリアにあったクレジット・アンシュタルト銀行の破綻だった。そして今、世界経済危機の新たなステージで主役に躍り出たのも、クレジット・アンシュタルトの後継銀行を含むオーストリアの銀行だ。

 ヨーロッパを揺さぶっている新しい危機は、アメリカ発のサブプライム危機ほど破壊的ではないだろう。ましてや大恐慌再来の前ぶれとはいえない。だがこれまで中南米や東南アジアにしか見られなかった新興国型の危機の特徴がすべてそろっている。通貨は急落し、資本は流入から流出に転じ、政府の債務不履行が危ぶまれている。

 サブプライム危機と同じように、ヨーロッパの危機も大規模なハイリスク・ハイリターンのローンがもたらした。今回は西欧の銀行が東欧に貸し出したローンだ。好況時には大きな利益を生んだが、世界的な不況があらゆる経済のリスクを浮き彫りにするなか、東欧向けの債権が焦げつきはじめた。

東西分裂の悲劇を警告

 西欧の銀行は、東欧向け融資残高1兆7000億ドルのうち1000億~3000億ドルを損失処理する必要があるとみられている。

 危ないのは銀行だけではない。数十年ぶりに国家そのものが支払い不能になりかねない状況になった。2月24日には格付け会社スタンダード&プアーズが、ラトビア国債を「ジャンク」(債権回収の可能性が低い)格に引き下げた。EU(欧州連合)加盟国ではルーマニアに続いて2カ国目だ。IMF(国際通貨基金)はすでにハンガリー、ラトビア、ウクライナの救済に踏み切った。今はルーマニアなどと協議をしている。

 東欧の病原菌は西に感染しつつある。この数週間、ユーロ圏の国債利回り格差が拡大。オーストリアやギリシャ、イタリア、アイルランドの国債の利回りが上昇している。投資家が債務不履行のリスクと引き換えに上乗せ分を求めているからだ。主な原因は国家財政の悪化。銀行の経営悪化も不安を助長した。ユーロも売られ、昨年7月から対ドルで22%も下落した。

 今回の危機は経済にとどまらない。EUの存在をかけた試練でもある。EU内部で亀裂が深まる一方、危機に対処する能力がいかに欠けているかが浮き彫りになった。

 どの加盟国も世界的な解決策が必要だと唱えるが、実際にはほとんど自国のためにしか動いていない。東欧などの子会社から資金を引き揚げるよう自国の銀行に指示した国もある。フランスは国内の雇用を守るため、仏企業の経営者たちに東欧の工場の閉鎖を求めた。

 世界銀行のロバート・ゼーリック総裁は先週、こうした流れに警鐘を鳴らし、ヨーロッパは再び二つに分裂する「悲劇」に陥りかねないと語った。くしくも今年はベルリンの壁崩壊から20周年だ。

 世界銀行は2月27日、欧州復興開発銀行および欧州投資銀行と共同で東欧の銀行などに対して最大245億ユーロ(約3兆円)の緊急融資を実施すると発表した。だが、さらに大規模な救済策を求める声は今のところ無視されている。

 東欧危機はまさに最悪のタイミングで起きた。ヨーロッパはアメリカ同様、今もサブプライム危機の影響から抜け出せていない。ヨーロッパの銀行はアメリカ発の「トキシック・ペーパー(有毒証書)」の40%を購入したが、損失処理や資本増強はアメリカより遅れている。またアメリカの銀行より借金への依存率が高いため、損失処理や事業再編にはアメリカ以上の痛みと時間を要するだろう。

 さらにヨーロッパの銀行は、新興国向けのハイリスク・ハイリターンな融資がアメリカの銀行より多い。住宅ローンだけでなく、企業向けや消費者向けの融資もある。国際決済銀行(BIS)によれば、新興国が世界中から借りた4兆6000ドルのうち73%はヨーロッパの銀行による融資。アメリカは10%、日本は5%だ。

 当然、最大の新興国リスクに直面しているのはEUの銀行である。欧州復興開発銀行は、東欧向け融資は最悪で20%ほど債務不履行に陥る可能性があるとする。最も危険なのはバルト3国とルーマニア、ウクライナだという。

 ダンスク銀行(デンマーク)のアナリスト、ラース・クリステンセンによると、西欧の銀行は1000億~3000億ドル規模の不良債権処理が必要で、そのうち最も打撃を受けるのはオーストリアだ。同国の銀行はGDP(国内総生産)の60%にあたる2840億ドルを東欧に貸し付けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏、パリ近郊でのイスラム教徒の集会禁止 治安上のリ

ワールド

ホルムズ開放巡り約40カ国がオンライン会合、英国主

ワールド

トランプ氏、輸入医薬品に関税100%の大統領令に署

ワールド

米政権、鉄鋼・アルミ・銅の派生製品への関税引き下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 2
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受給年齢」
  • 3
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トランプ関税が米国民に与える「破産」の苦しみ
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 6
    日本の男女の賃金格差は世界でも突出して大きい
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    先進国が出生数の減少を嘆く必要はない? 「経済的…
  • 9
    「一般市民に敵意なし」...イラン大統領が米国民宛て…
  • 10
    200年前の沈没記録が裏付けられた...捕鯨船を海の藻…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 9
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中