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EUを揺さぶる東欧クライシス
「東」では国家破綻の危機が迫り「西」の銀行には東欧向け不良債権がのしかかる。今は東の仲間をデフォルトから救うときだ
あのときに不気味なほど似ている。1931年、世界中の銀行にデフォルト(債務不履行)の連鎖をもたらして大恐慌を泥沼化させたのは、オーストリアにあったクレジット・アンシュタルト銀行の破綻だった。そして今、世界経済危機の新たなステージで主役に躍り出たのも、クレジット・アンシュタルトの後継銀行を含むオーストリアの銀行だ。
ヨーロッパを揺さぶっている新しい危機は、アメリカ発のサブプライム危機ほど破壊的ではないだろう。ましてや大恐慌再来の前ぶれとはいえない。だがこれまで中南米や東南アジアにしか見られなかった新興国型の危機の特徴がすべてそろっている。通貨は急落し、資本は流入から流出に転じ、政府の債務不履行が危ぶまれている。
サブプライム危機と同じように、ヨーロッパの危機も大規模なハイリスク・ハイリターンのローンがもたらした。今回は西欧の銀行が東欧に貸し出したローンだ。好況時には大きな利益を生んだが、世界的な不況があらゆる経済のリスクを浮き彫りにするなか、東欧向けの債権が焦げつきはじめた。
東西分裂の悲劇を警告
西欧の銀行は、東欧向け融資残高1兆7000億ドルのうち1000億~3000億ドルを損失処理する必要があるとみられている。
危ないのは銀行だけではない。数十年ぶりに国家そのものが支払い不能になりかねない状況になった。2月24日には格付け会社スタンダード&プアーズが、ラトビア国債を「ジャンク」(債権回収の可能性が低い)格に引き下げた。EU(欧州連合)加盟国ではルーマニアに続いて2カ国目だ。IMF(国際通貨基金)はすでにハンガリー、ラトビア、ウクライナの救済に踏み切った。今はルーマニアなどと協議をしている。
東欧の病原菌は西に感染しつつある。この数週間、ユーロ圏の国債利回り格差が拡大。オーストリアやギリシャ、イタリア、アイルランドの国債の利回りが上昇している。投資家が債務不履行のリスクと引き換えに上乗せ分を求めているからだ。主な原因は国家財政の悪化。銀行の経営悪化も不安を助長した。ユーロも売られ、昨年7月から対ドルで22%も下落した。
今回の危機は経済にとどまらない。EUの存在をかけた試練でもある。EU内部で亀裂が深まる一方、危機に対処する能力がいかに欠けているかが浮き彫りになった。
どの加盟国も世界的な解決策が必要だと唱えるが、実際にはほとんど自国のためにしか動いていない。東欧などの子会社から資金を引き揚げるよう自国の銀行に指示した国もある。フランスは国内の雇用を守るため、仏企業の経営者たちに東欧の工場の閉鎖を求めた。
世界銀行のロバート・ゼーリック総裁は先週、こうした流れに警鐘を鳴らし、ヨーロッパは再び二つに分裂する「悲劇」に陥りかねないと語った。くしくも今年はベルリンの壁崩壊から20周年だ。
世界銀行は2月27日、欧州復興開発銀行および欧州投資銀行と共同で東欧の銀行などに対して最大245億ユーロ(約3兆円)の緊急融資を実施すると発表した。だが、さらに大規模な救済策を求める声は今のところ無視されている。
東欧危機はまさに最悪のタイミングで起きた。ヨーロッパはアメリカ同様、今もサブプライム危機の影響から抜け出せていない。ヨーロッパの銀行はアメリカ発の「トキシック・ペーパー(有毒証書)」の40%を購入したが、損失処理や資本増強はアメリカより遅れている。またアメリカの銀行より借金への依存率が高いため、損失処理や事業再編にはアメリカ以上の痛みと時間を要するだろう。
さらにヨーロッパの銀行は、新興国向けのハイリスク・ハイリターンな融資がアメリカの銀行より多い。住宅ローンだけでなく、企業向けや消費者向けの融資もある。国際決済銀行(BIS)によれば、新興国が世界中から借りた4兆6000ドルのうち73%はヨーロッパの銀行による融資。アメリカは10%、日本は5%だ。
当然、最大の新興国リスクに直面しているのはEUの銀行である。欧州復興開発銀行は、東欧向け融資は最悪で20%ほど債務不履行に陥る可能性があるとする。最も危険なのはバルト3国とルーマニア、ウクライナだという。
ダンスク銀行(デンマーク)のアナリスト、ラース・クリステンセンによると、西欧の銀行は1000億~3000億ドル規模の不良債権処理が必要で、そのうち最も打撃を受けるのはオーストリアだ。同国の銀行はGDP(国内総生産)の60%にあたる2840億ドルを東欧に貸し付けている。