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金融危機クロニクル
リーマンショックから1年、
崩壊の軌跡と真因を検証する
リーマン・ショック!
米政府と大銀行幹部が破綻寸前のリーマン・ブラザーズをめぐって繰り広げた週末の崖っぷちバトル
アメリカの金融当局者とウォール街にとって、崖っぷちの週末が続いている。経営難に陥った政府系住宅金融大手、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の救済を発表した9月7日の日曜日に続き、この週末はニューヨーク連邦銀行にヘンリー・ポールソン財務長官やモルガン・スタンレーのジョン・マックCEO(最高経営責任者)、メリルリンチのジョン・セインCEOらが緊急会議のため集まった。月曜に市場が開く前に、全米4位の投資銀行、リーマン・ブラザーズの破綻回避策をまとめるためだ。
リーマンにとって、事態は急を要する。ヘッジファンドはすでに他の証券会社に乗り換えるなど顧客離れが始まっているといわれ、格付け会社も格下げを警告している。このまま週が明ければ、1週間前までは誰も想像しなかった、連邦破産法11条の適用申請に追い込まれかねない。
世界の金融市場への影響も大きい。リーマンの最大の問題資産は約300億ドルの商業用不動産だが、一方では資産運用部門ニューバーガー・バーマンのように収益力のあるビジネスももっている。金融危機の深刻化とともに、リーマンのような金融機関でさえ軒並み資本調達できなくなる悪夢を、世界は恐れている。
それでも米政府は13日時点でリーマンに対する公的支援を否定しており、単独の買い手がつかないなら、数社が共同で買収する案や、会社をバラバラにして売却する案などを模索している。ぎりぎりの交渉のなかで米政府とウォール街がリーマン危機をどう処理するかは、アメリカの金融危機の今後を占う大きなターニングポイントになる。
リーマンは、1週間で奈落に突き落とされた。韓国の政府系金融機関、韓国産業銀行への出資要請が不調に終わったと伝えられた9日には、株価が45%下落。ダウ工業株30種平均も、金融危機への懸念から280ドル下落した。前日には、住宅公社2社に対する2000億ドルの公的支援を好感して290ドルの大幅高をつけたが、一日で帳消しになった。リーマンは10日、資産売却で事業を大幅に縮小する再建策を発表したが、結局、週初めに14.15ドルだった株価は週末には3.65ドルまで下落した。
ベアーやファニーとは違う
14日朝の時点で最も有力な買い手候補の英銀バークレイズやバンク・オブ・アメリカが決断を渋っている理由は、リスクの高い買い物なのに政府が支援を拒否していることだ。3月にJPモルガン・チェースが証券会社のベアー・スターンズを救済合併したときは、FRB(連邦準備理事会)が最大300億ドルの資金支援を約束した。
リーマンの売却交渉がもたつく間に、株式市場はすでに、次の破綻懸念先に目を向けはじめている。米3大証券の一角、メリルリンチの株価は先週、38%下落した。
それでもアメリカ政府は救済を拒むのだろうか。ポールソン財務長官に近い情報筋は12日、財務省がリーマンの買い手探しを支援していることを認める一方、公的資金を使う可能性は断固否定した。
ベアーや住宅公社2社とは事情が違う、というのが財務省の主張だ。住宅公社の場合、両社が発行する債券は暗黙の政府保証つきとみなされ、中国人民銀行など世界の中央銀行が大量に保有していた。FRBによればその残高は、08年3月末時点で9850億ドル。アメリカ政府は、それが債務不履行に陥ることで重要な貿易相手国が大きな損失をこうむる地政学的リスクを冒すことはできなかった。「大きすぎてつぶせなかったわけじゃない」と、調査会社フュージョンIQのバリー・リソルツCEOは言う。「中国に借りがありすぎたんだ」
ベアーとの違いは主に二つ。まず、リーマンはリスク管理には失敗したものの、まだ規模の抑制は利いていた。ベアーは、主力の証券仲介部門を通じて、数兆ドルもの仲介取引や裁定取引などの複雑な金融取引を行っていた。ベアーがつぶれれば、世界の銀行やヘッジファンドなどの金融機関が巨額の損失をこうむったところだ。こうした市場でのリーマンの規模は、ベアーほど大きくない。
リーマンはFRBの「窓口貸出」も利用できる。ベアー救済を機に証券会社にも開放された、公定歩合による融資制度だ。これを活用すればベアーのように資金繰りに行き詰まることはないし、リーマンはその資金で短期債務を返済し、借入比率も削減している。つまり、リーマンがつぶれても、国際金融システムへの影響はベアーほどではない、という考えだ。