最新記事

ビジネス英語の科学

英会話の科学

語彙力アップのコツ、英語キッズの育て方
メールと電話のビジネス英語、ほか

2009.07.30

ニューストピックス

ビジネス英語の科学

グローバル化する職場の最前線で即戦力になる英語力の伸ばし方

2009年7月30日(木)15時17分
井口景子、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局)

 都内の外資系製薬企業に勤める北浦岳(仮名、38)が昨年夏、米カリフォルニア州サンノゼでの社内研修に派遣されたときのこと。各国から集まった同僚が6人ずつのチームに分かれ、ケーススタディーの解決策を考えるセッションで、北浦の自信は打ち砕かれた。「議論についていくのに精いっぱいで、ほとんど何も発言できなかった。最後には疲れ果て、英語なんて見たくない気分だった」

 2年前に日系メーカーから転職して以来、英文メールを書いたり英語の書類を読むのは日常業務の一部。職場の会話は主に日本語だが、学生時代に1年間語学留学した経験もあり、英語を話す抵抗感は少ないと思っていた。「会話をもっと練習しないと、また情けない思いをすることになる」

 そんなに自分を責める必要はない。会議で発言できないという多くの日本人に共通する悩みはたいてい、会話力不足かシャイな性格のせいとされてきた。

 しかし最近の脳科学の研究によって、非ネイティブのなかでも、日本人のようにインドヨーロッパ語(印欧語)族に属さない言語を母語とする人には大きなハンディがあることがわかってきた。

 英語はドイツ語などと同じ印欧語族の言葉だが、日本語は音韻も文法もまったく系統が違う。名古屋大学の木下徹教授らは、スペイン人など印欧語族の母語話者と日本人が英語を聞いたときの脳を、光トポグラフィで比較した。

 両グループの英語力はTOEIC800点前後とほぼ同じはずなのに、リスニング時の脳血流量は日本人が有為に多かった。つまり同じように英語を聞いて理解できても、脳にかかる「認知負荷」は日本人のほうが大きく、その結果、自分の意見をまとめたり、反論を考える余力が少ないと考えられる。

「会話というリアルタイムの勝負では余力の大きさがものを言う」と、木下は言う。「脳の負担を考えれば、日本人が会議で黙り込むのも無理はないのかもしれない」

 企業の国際合併や新興市場への進出が加速し、ビジネス共通語としての英語の存在感は高まる一方だ。オフィスに英語が浸透するほど、非ネイティブの悩みも深まる。

 プレゼンテーションで想定外の質問を受けてしどろもどろになった、電話会議で数字の桁を言い間違えて大混乱、取引先への謝罪メールの表現がカジュアルすぎて、ますます険悪な雰囲気に──。

 ビジネス界から聞こえる悲鳴は、科学者の世界にも届いているようだ。長年、学校で英語を学ぶ学習者を想定してきた心理学や言語学、英語教授法などの研究者も、ビジネスパーソンの切羽詰ったニーズに目を向けはじめた。

 商談を有利に進めるために丸暗記が役立つのはなぜ? 英語のプレゼンテーションで緊張しないコツは? 大人の記憶のメカニズムを生かした時間活用術とは? ビジネスの最前線で即戦力になる英語力についての研究成果が少しづつ見えはじめている。

冠詞の使い分けを「自動化」するコツ

 注目されるテーマの一つが、「とっさに言葉が出ない」という問題を解消するため、外国語を操る際の脳の負荷を減らす方法だ。

 私たちは母語を話すとき、相手の発音を聞き取り理解し、適切な語を選び、文法に沿って組み立てて発音するという基本プロセスをほぼ自動的に行っている。一方、慣れない外国語ではこの処理が自動化されていないため言葉に詰まってしまう。商談の席で相手の顔色を見て交渉するといった高度な活動をする余力もない。

 基本処理にかかる脳の負荷を減らす王道は、繰り返し練習して処理を自動化すること。車の運転に慣れるにつれて無意識にハンドルを操れるようになり、会話を楽しむ余裕が生まれるのと同じ理屈だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中