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日本の公立小学校で英語が必修科目になれば「英語オンチ」は返上できる?
教育
マイ・ネーム・イズ・アレン。そう話しかけてきた12歳のプー・チェンは、アメリカなまりの英語で元気に話しだした。家は四川省の成都にあって、35時間かけてここまで来たんだ......。
今年8月、北京で開かれた中国初の大規模な英語スピーチ大会でのこと。約5万人が参加した大会の小学生部門で、チェンは予選を突破して準決勝に進出した。
英語は地元の大学生に3カ月間特訓してもらったという。公園やマクドナルドで自発的に開かれている勉強会にも週1回参加した。「英語が話せないなんて、耳や口が使えないのと同じだから」と、チェンは言う。大会には日本の子供も参加したが、中国の子供たちに比べると影が薄かった。
中国では今、「英文熱」が巻き起こっている。子供向けの英語教室が次々に誕生し、書店には英語教材があふれている。街中で外国人を見つければ、親は子供を押し出して英会話の「実習」をさせようとする。都市部の小学校では、小学低学年から英語を教えている。
2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟し、08年の北京オリンピック開催が決まったことで中国人の意識は変わったと、スピーチ大会を共催した中国教育国際交流協会の林佐平(リン・ツオピン)は言う。「中国が国際社会で果たす役割は大きくなっている。私たちも、母語だけに頼っているわけにはいかない」
そんな大げさな、と思う人も多いだろう。確かに、英語さえ話せればグローバル化の波に乗り遅れずにすむ、というのはあまりに短絡的な発想だ。しかし現実には、外国語教育の早期化は世界的なトレンドになっている。
韓国は97年、小学校に英語の授業を導入した。台湾では、英語の授業を始める時期を5年生から3年生に早めようとしている。加盟国の全市民が母語以外に2言語を話せるよう提言しているEU(欧州連合)でも、外国語の授業はたいてい9歳以前に始まる(EUには公用語が20言語ある)。
大阪大学の大谷泰照名誉教授が45カ国を対象に行った調査によれば、公立学校で11歳まで外国語の授業を行っていないのは、日本とオーストラリアだけだった。
焦っているのは日本も一緒だ。文部科学省は昨年3月、「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」を発表。今年3月には中央教育審議会(中教審)が、小学校に英語を科目として導入するための検討を始めた。来年3月までに結論を出す予定で、導入が決まれば数年後にはすべての小学校で英語の授業がスタートする。
ただ、小学校に英語を導入することには反対意見もある。批判派が危惧するのは、教師や学級の人数など、今の日本の小学校には英語の授業を全面的に導入するための基盤が整っていないことだ。英語が中学入試の科目になって、受験競争がますます過熱しかねないと懸念する声もある。
「小学校でやることに反対ではないけど、ゆとり教育のせいで減っている他の科目の授業がさらに削られるのは困る」と、西東京市に住む金澤信幸は言う。4年生の娘はすでに「総合的な学習の時間」で英語を学んでいるが、「今のような内容だとお遊びでしかない気がする」と、金澤は言う。
それでも、英語教育の早期化をめざす動きは止まりそうにない。賛成派がその理由としてあげるのは、日本をめぐる環境の変化だ。
「これからの国際貢献はお金を出すだけではだめ。知的な貢献が大事で、そのためには世界共通語である英語でコミュニケーションできなくてはいけない」と、4月に開校した国際教養大学(秋田県)の中嶋嶺雄学長は言う。同校は専任教員の6割強を外国人が占め、授業はすべて英語で行っている。
ヨーロッパの国々が早期教育に熱心なのも、似たような危機意識をもっているからだ。「異なる背景の人が一緒に暮らしていくには、互いの文化を知る必要がある」と、欧州委員会の教育・文化担当ポール・ホールズワースは言う。「そのためには、まず言葉を知らないと始まらない」
問題は、学校で教えるのは本当に「早ければ早いほどいい」のかどうかだ。参考になりそうなのが、フィンランドの例だ。