最新記事

元祖エコ大国の復活が始まる

コペンハーゲン会議
への道

CO2削減と経済成長のせめぎあい
ポスト京都議定書の行方は?

2009.07.03

ニューストピックス

元祖エコ大国の復活が始まる

新政権を迎えたアメリカは悪役の地位を脱してエコ政策のリーダーに返り咲くか

2009年7月3日(金)12時42分
シュテファン・タイル(ベルリン支局)

先駆者 カリフォルニア州は風力発電でもすでに世界をリードしている Lucy Nicholson-Reuters

 ちょっとややこしいクイズを一つ。日本やドイツより環境にやさしく、地熱エネルギーの生産量がヨーロッパの合計を上回る大国は?

 ヒント。その国はエコ対策にかけては先駆者だ。自動車の排ガスやエネルギー効率、自然保護に関しては、世界的にみても厳格な規制が設けられている。

 まさかアメリカのはずはないと、あなたは思うかもしれない。環境保護に向かう世界のなかで、アメリカが悪役の筆頭であることは誰もが知っている。安いガソリンと豊富な石炭を使いまくり、ホワイトハウスには京都議定書を批判する大統領が8年間も居座った。

 アメリカのGDP(国内総生産)1ドル当たりの二酸化炭素(CO2)排出量は、EU(欧州連合)の1・5倍にのぼる。国民1人当たりで計算すると、さらにひどい。アメリカ人1人当たりの年間排出量は20トンだが、EU市民はわずか8・4トンだ。

 それでも答えはアメリカではないか、と思ったあなた。8割方は正解と申し上げておこう。アメリカでは州によって、環境保護への取り組みに大変な差がある。優等生の州は、その州だけを取り上げて「グリーンな国」と呼んでも差し支えない。

 たとえば人口約3700万のカリフォルニア州は、GDP1ドル当たりのCO2排出量がドイツより20%少ない。風力や太陽光などの再生可能エネルギーは、総発電量の24%を占めている(ドイツは15%、日本は11%)。太陽光、風力、地熱を使った発電施設も、世界最大のものはすべてカリフォルニアにある。

 経済危機のあおりで財政は破綻寸前のカリフォルニアだが、環境対策はピカ一だ。カリフォルニアが国だったら経済規模は世界10位だし、エコ対策でもトップレベルだと胸を張れる。

11州がドイツより優等生

 バラク・オバマ新大統領は、雇用と環境問題を同時に解決する「グリーン・ニューディール政策」をひっさげて政権に就いた。あのアメリカが環境保護で世界の指導的役割を果たすのではないか、政策でも技術でもヨーロッパやアジアの国々をしのぐのではないかと、専門家はみている。

 オバマは就任してすぐに、州が独自の環境政策を取ることを容認した。とくにカリフォルニア州は世界で最も厳格な排ガス規制をめざしていたが、ジョージ・W・ブッシュ前政権がこれを阻んでいた。

 さらにオバマは、アメリカのCO2排出量を2020年までに3分の1減らし、2050年までに80%削減するという野心的な目標を掲げている。先ごろ議会を通過した7870億ドルの景気刺激策も、800億ドル以上は環境関連の減税や支出に振り向けられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GDP1─3月期は年率2.0%減、内需に弱さ 特殊

ワールド

ショルツ独首相、成長維持に海外人材必要と訴え EU

ワールド

カタール、年内にさらにLNG長期契約締結へ

ビジネス

景気は緩やかな回復続く、資源高や為替による物価高に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中