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中国の真実
建国60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像
孔子の教えを忘れた中国の高齢化危機
一人っ子政策の副作用で高齢化が進む一方、「孝行の徳」の精神は崩壊しつつある。年親の面倒は誰が見る?
高齢者福祉の準備が進まぬまま、超高齢化社会に突入しつつある中国。一人っ子政策はいびつな人口構成と伝統的なモラルの崩壊という深刻な問題をもたらしたが、人口爆発を恐れる政府はこの政策を引っ込められない。急速に老いる大国・中国はどこに向かうのか。
一人っ子政策がすでに破綻していることは、中国ではよく知られた事実だ。だから、先ごろ中央政府の担当者が一人っ子政策をやめる可能性に言及しても、今さら誰も驚かなかった。
国家人口・計画出産委員会の趙白鴿(チャオ・パイコー)副主任は08年2月28日、北京で行われた記者会見で、「時期や方法は答えられない」としながらも、この政策はもはや機能しておらず、見直しが必要だと明言した。「この件は今や政策決定者レベルでも大きな問題となっている」
国民に不人気な一人っ子政策が導入されてほぼ30年。実際にはそれほど厳格に守られてきたわけではない。それでも、この政策は中国の人口構成を大きくゆがめ、急成長を遂げるこの国の将来に暗い影を投げかけている。
経済の急拡大とそれによる混乱も相まって、一人っ子政策はさまざまな副作用をもたらしてきた。国の高齢者福祉はお寒い状況なのに、人口の高齢化が急速に進む一方で、老いた親の面倒を見る子供の数は減っている。
甘やかされた子供は親の面倒を見ない
伝統的に男子偏重の中国では、一人っ子政策が実施されると、多くの夫婦が「1人しか産めないなら男の子を」と考え、若年層の男女比が男性に偏る結果となった。こうした傾向が中国のめざす「和諧(調和の取れた)社会」の実現につながらないことは、政府もよくわかっている。だから、政策を見直しはじめたのだが、見直し程度ではすまないかもしれない。
当局者を困惑させているのは、長年守られてきた「孝」の精神が崩壊してきたことだ。一人っ子政策のせいで自己中心的な若者が増え、老親の世話を疎んじるようになったと、専門家は分析する。
しかも、好景気に沸く大都市で豊かな生活をエンジョイする若いカップルには、子供を欲しがらない傾向が目立つ。子供をあてにせず、老後の生活資金は自分で用意すればいいという考え方だ。
こうしたなかで、男子偏重の伝統も揺らぎはじめた。息子よりも娘のほうが老後の面倒を見てくれそうに思えるからだ。最近インターネット上で行われた世論調査では、子供をもつなら女の子がいいと答えた人が、男の子派をわずかながら上回った。
政府も問題解決に知恵を絞っている。孝行の徳は過去のものになったとみて、政府が力を入れているのは在宅介護支援の体制を整えることだ(親を老人ホームに入れるという選択肢は、中国人にはなかなか受け入れがたい)。
介護負担を手っ取り早く軽減するには、「子供は1人」の縛りをはずせばいい。すでに一部の都市はそうしている。80年代には強制的な不妊手術で国際的な非難を浴びた中央政府も、今は一人っ子政策をそこまで徹底する意思も能力もないようだ。
だが一人っ子政策を廃止すれば、かつてのように人口が爆発的に増えはじめるかもしれない。それは困る。だから趙副主任の発言が報道されると、温家宝(ウエン・チアパオ)首相はあわてて一人っ子政策の廃止を否定、「現行の政策を堅持し、引き続き出生率を抑制する」と、08年3月5日に開幕した第11期全国人民代表大会(全人代)で宣言した。
しかし、大きな変化が進んでいるのは明らかだ。人口の急速な高齢化は豊かな国々に共通する問題だが、中国の場合は一人っ子政策が事態を一段と複雑にしている。経済の発展に伴い、中国人の平均寿命は1949年の50歳未満から現在は72歳以上と、大幅に伸びた。60歳以上の高齢者が人口に占める割合は、2000年の10%から06年には11・3%に増えている。