最新記事

孔子の教えを忘れた中国の高齢化危機

中国の真実

建国60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像

2009.04.24

ニューストピックス

孔子の教えを忘れた中国の高齢化危機

一人っ子政策の副作用で高齢化が進む一方、「孝行の徳」の精神は崩壊しつつある。年親の面倒は誰が見る?

2009年4月24日(金)19時31分
メリンダ・リウ(北京支局長)

高齢者福祉の準備が進まぬまま、超高齢化社会に突入しつつある中国。一人っ子政策はいびつな人口構成と伝統的なモラルの崩壊という深刻な問題をもたらしたが、人口爆発を恐れる政府はこの政策を引っ込められない。急速に老いる大国・中国はどこに向かうのか。

 一人っ子政策がすでに破綻していることは、中国ではよく知られた事実だ。だから、先ごろ中央政府の担当者が一人っ子政策をやめる可能性に言及しても、今さら誰も驚かなかった。

 国家人口・計画出産委員会の趙白鴿(チャオ・パイコー)副主任は08年2月28日、北京で行われた記者会見で、「時期や方法は答えられない」としながらも、この政策はもはや機能しておらず、見直しが必要だと明言した。「この件は今や政策決定者レベルでも大きな問題となっている」

 国民に不人気な一人っ子政策が導入されてほぼ30年。実際にはそれほど厳格に守られてきたわけではない。それでも、この政策は中国の人口構成を大きくゆがめ、急成長を遂げるこの国の将来に暗い影を投げかけている。

 経済の急拡大とそれによる混乱も相まって、一人っ子政策はさまざまな副作用をもたらしてきた。国の高齢者福祉はお寒い状況なのに、人口の高齢化が急速に進む一方で、老いた親の面倒を見る子供の数は減っている。

甘やかされた子供は親の面倒を見ない

 伝統的に男子偏重の中国では、一人っ子政策が実施されると、多くの夫婦が「1人しか産めないなら男の子を」と考え、若年層の男女比が男性に偏る結果となった。こうした傾向が中国のめざす「和諧(調和の取れた)社会」の実現につながらないことは、政府もよくわかっている。だから、政策を見直しはじめたのだが、見直し程度ではすまないかもしれない。

 当局者を困惑させているのは、長年守られてきた「孝」の精神が崩壊してきたことだ。一人っ子政策のせいで自己中心的な若者が増え、老親の世話を疎んじるようになったと、専門家は分析する。

 しかも、好景気に沸く大都市で豊かな生活をエンジョイする若いカップルには、子供を欲しがらない傾向が目立つ。子供をあてにせず、老後の生活資金は自分で用意すればいいという考え方だ。

 こうしたなかで、男子偏重の伝統も揺らぎはじめた。息子よりも娘のほうが老後の面倒を見てくれそうに思えるからだ。最近インターネット上で行われた世論調査では、子供をもつなら女の子がいいと答えた人が、男の子派をわずかながら上回った。

 政府も問題解決に知恵を絞っている。孝行の徳は過去のものになったとみて、政府が力を入れているのは在宅介護支援の体制を整えることだ(親を老人ホームに入れるという選択肢は、中国人にはなかなか受け入れがたい)。

 介護負担を手っ取り早く軽減するには、「子供は1人」の縛りをはずせばいい。すでに一部の都市はそうしている。80年代には強制的な不妊手術で国際的な非難を浴びた中央政府も、今は一人っ子政策をそこまで徹底する意思も能力もないようだ。

 だが一人っ子政策を廃止すれば、かつてのように人口が爆発的に増えはじめるかもしれない。それは困る。だから趙副主任の発言が報道されると、温家宝(ウエン・チアパオ)首相はあわてて一人っ子政策の廃止を否定、「現行の政策を堅持し、引き続き出生率を抑制する」と、08年3月5日に開幕した第11期全国人民代表大会(全人代)で宣言した。

 しかし、大きな変化が進んでいるのは明らかだ。人口の急速な高齢化は豊かな国々に共通する問題だが、中国の場合は一人っ子政策が事態を一段と複雑にしている。経済の発展に伴い、中国人の平均寿命は1949年の50歳未満から現在は72歳以上と、大幅に伸びた。60歳以上の高齢者が人口に占める割合は、2000年の10%から06年には11・3%に増えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界の運用担当者、強気度が4年半ぶり高水準=Bof

ビジネス

アングル:長期金利、27年ぶり水準でも達成感なし 

ワールド

中国、トランプ氏の「平和評議会」から招待状 受諾は

ワールド

英のインド洋要衝巡る主権移譲、「完全な弱腰対応」と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生物」が侵入、恐怖映像と「意外な対処法」がSNSで話題に
  • 2
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危険生物」を手渡された男性、「恐怖の動画」にSNS震撼
  • 3
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 6
    中国、欧米の一流メディアになりすまして大規模な影…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 10
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中