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中国の真実
建国60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像
教育信仰を壊す中国就職氷河期
成功を約束されていたはずの大学生を景気減速が直撃、空前の就職難で親子2世代の夢が消えてゆく
大学を出ても就職先は少ない(2月5日、北京の就職説明会で)
Jason Lee-Reuters
よく働いてよく勉強すれば成功できるというのは、おなじみのアメリカンドリームだが、実は中国にも独自のドリームがある。1400年以上前に隋王朝で実力本位の官吏採用試験が導入されて以来、親も子も信じてすがってきたチャイニーズドリームである。
勤労を重んじるのはアメリカと同じだが、中国では教育のほうがはるかに重要視される。教育こそが、貧困から身を起こし自分と家族の暮らしを楽にするための武器なのだ。トウ小平が改革開放を唱えて金儲けが名誉なことになった70年代末以降、この夢はますます特別な魅力を放つようになった。
だが急成長してきた経済がついに減速を始め、数百万人の若者が大学を出ても夢に手が届かない可能性に直面している。シンクタンクの中国社会科学院によれば、08年夏に大学を出て年末まで就職先が見つからなかった卒業生は150万人にのぼったという。
チャイニーズドリームが崩壊の危機にさらされているかのような事態を、中国政府も深く憂慮している。08年12月、北京のある大学を訪れた温家宝(ウエン・チアパオ)首相は「あなたたちは心配だろうが、私はもっと心配している」と、学生たちに語った。彼らの就職先を確保することは、工場を解雇された労働者の再就職先を探すのと並ぶ最優先課題だとも言った。経済的な不満が大規模な抗議デモに結びついてきた歴史を思えば、中国政府が数百万人規模の失業を看過できないのも無理はない。
もっとも中国の学生は、民主化デモが武力で鎮圧された89年の天安門事件以降、おおむね従順で政治には無関心できた。それに彼らは、労働者全体のなかでは約6%にすぎない少数派だ。
それでも、大学生の就職難は大きな象徴的な意味をもつ。「今の学生は二つの世代の期待を担っている」と、広州の心理学者、韋志中(ウェイ・チーチョン)は言う。もし学生とその親たちが夢を信じなくなれば、彼らの不安を通じて社会全体に政治不信が広がるだろう。
大学入学者は6年で倍増
政府は、この国を前進させてきた夢に中国人が失望してしまうのを防ごうと必死だ。人民解放軍は大卒の採用枠を2倍の3万3000人に増やした。大学では科学的な研究を強化して研究職を増やしている。貧しい地方に赴任してくれる新卒教師の数を倍にするため、学費ローン返済の肩代わりも行っている。
最も大きいのはもちろん、総額5860億ドルの景気対策だ。その大半は国有企業を通じて鉄道や電線などのインフラ建設に回されるだろう。目標は最大900万人の新しい雇用を09年中に生み出すこと。対象は大卒だけではないが、50万人の工学部卒業生には朗報だ。
09年夏に大学を卒業する予定の610万人の学生の親たちも、対策が効果をあげることを願っている。文化大革命後の78年に大学入試が再開してからずっと、親たちは子供に学位を取得させるため大きな犠牲を払って学費を捻出してきた。今、多くの親たちがこの投資が報われないことを恐れはじめている。社会保障制度が整っていないこの国では、それは子供に老後の面倒を見てもらえなくなることを意味する。
内陸部の貧農の家の出身で、北京の大学に通う学生コン・アイリンがいい例だ。彼女の59歳の父親は、臨時の料理人として稼ぐ月1万6000円の給料で家族を養っている。「退職金も社会保険もない」と、彼は言う。「年を取ったら、頼れるのは子供だけだ」。コンの家族は、彼女を大学に行かせるために約140万円を費やした。将来への大きな賭けだ。
その賭けは報われるかもしれない。だが求職活動をする学生たちは、世界経済が危機に陥るより前から厳しい現実に直面しはじめていた。90年代以降大学生の数が急増したため、学位の魅力が色あせはじめたのだ。
過去6年間で大学入学者の数は倍増し、パニックの兆候はあちこちにある。成績優秀な学生でさえ、今は中規模の都市で職探しをしている。北京にある名門の清華大学で最近開かれた就職説明会では、一地方都市の南京での就職について話を聞くために、学生は2階下の階まで階段に列をつくった。