SPECIAL ADVERTISING SECTION

自分を創る音の風景

vol.5 音響設計家 豊田泰久さん

2014年07月25日(金)12時01分

──では、音響設計家とは具体的にどのようなお仕事なんでしょうか。
「大きく分けて3つあるんですよ。ひとつはコンサートホールの音の響きを設計する、室内音響設計の仕事。クラシックのコンサートホールの場合はマイクもスピーカーも使わないので、建築家とともにホールの形であったり寸法、材料を考えていくわけです。もうひとつは騒音制御、遮音。いくらいい音を作っても、外部騒音や空調などの設備騒音が聞こえたら駄目なんですね。もうひとつは電気音響設備。これはマイクロフォンやスピーカーのことですね。クラシックのコンサートホールでは使わないわけだけど、ポップスやロックなどクラシック以外のものではほとんど必要になってくる。この3つが仕事になってくるわけですね」

豊田泰久さん──いろんな職業の方とコミュニケーションを取りながら、ひとつの空間を作り上げていくわけですね。
「そうですね。電気設備の人と話をする必要も出てくるし、空調設備の設計者とサイレンサーについて話をすることもあります」

──コンサートホール専属のオーケストラと話し合いながら作っていくこともあるわけですか。
「ありますね。ヨーロッパやアメリカではオーケストラがそのホールを作り、運営することがあるんですね。日本の場合は県や市がクライアントになるケースが多いんだけど、オーケストラがクライアントになると、話が全然違うわけです。そのホールで自分たちが演奏するので、必然的に要求は厳しくなってきますよね」

──ヨーロッパなどではクラシック音楽の歴史そのものが違いますよね。
「ヨーロッパの人たちはクラシックのことを<ウエスタン・ミュージック>と呼ぶんですね。彼らにとってみると、<自分たちの音楽>なんです。だから、よくこう聞かれるんですよ。<あなたはなんでウエスタン・ミュージックのコンサートホールを作っているんですか? なぜ日本の音楽をやらないの?>と」

──そう聞かれた場合、どうお答えになるんですか。
「最初にそう聞かれたときは僕もドキッとしました。ポップスも含めた西洋音楽というのはロジカルにできているんです。楽譜が存在し、それによって教育することができる。誰もが同じ音を出せるようになるわけですよ。もちろん、その先には音楽家の表現があるわけですけど、その前の話として、ロジカルに作られていることが重要な意味を持つんです。でも、日本の音楽はシステマティックにできていない。システマティックにできていないぶん、教育が難しいんですね。例えば口伝で伝えられていくような場合、お師匠さんと1対1で30年習ってようやく一人前という世界になってくるわけですよね。そうなると、広がっていかない。これは優劣とは関係のない話で、西洋音楽のほうがシステマティックにできている分、広がりやすいんです。日本の音楽教育がいまだに西洋音楽が中心というのも、教育のシステムとして成り立ちやすいからなんです」

──システムとロジックを学べば、西洋人ではなくてもウエスタン・ミュージックはできる、と。
「そういうことです。だから、僕がクラシックの音響設計家をやっていてもおかしくないんですよ。そう答えると、大抵の人は<なるほど>と言いますね(笑)」

MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中