コラム

トランプ提唱のお下劣「移民ファイトクラブ」に矛盾あり【風刺画で読むアメリカ】

2024年07月24日(水)17時25分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
ドナルド・トランプ, 移民, キリスト教, 共和党, 保守, ファイト・クラブ

©2024 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<風刺画を米芸人パックンが読み解くコラム。トランプ前大統領がキリスト系団体の集会で提案したのは、移民同士を戦わせる格闘技大会。そもそもキリスト様も「移民」なのに...>

ドナルド・トランプは肩書コレクター。大統領のほか、不動産王、リアリティー番組のスター、性加害者、詐欺師、犯罪者などさまざまな経歴・前歴を持つが、プロレスのプロデューサーっぽいことをしていた過去もある。

その経験からか、最近ひらめきがあったようだ。とてもユニークな格闘技リーグを新設したいのだという。その名もMigrant Fight League(移民格闘リーグ)。リング上で移民同士が戦い、最後に勝ち残った選手が従来の格闘技王者と対決する。こんな細かなシナリオを、最近トランプは集会で発表した。政策の詳細は発表していないのに。ちなみにMigrantは季節労働者などを指す単語だが、保守派はよく移民という意味で使う。


トランプは昔から移民を「麻薬売人」「レイプ犯」「犯罪者」と呼び、最近だと「獣」「人間じゃない」とさらにさげすんでいる。全人口の14%が移民のアメリカで、そんな大勢を人格否定することはかなり大胆な暴言に思われる。しかしXenophobic(外国人嫌い)な観衆はこういうレトリックに熱狂する。 

今回も例外ではない。格闘大会の案を発表した場はFaith and Freedom Coalition(信仰と自由連盟)というキリスト教系政治団体が6月に開いた集会。この団体は主要な価値観として「信仰、勤勉、結婚、家族、自己責任、弱者救済」を掲げている。移民同士の決闘はそのどれに当たるのか想像がつかないが、トランプの企画に客席は沸いた。

移民は国民の平均より信仰心があつく、よく働く。家族関係も安定している場合が多い。つまり移民こそがこの団体の価値観を体現しているように思われる。そうでなくても社会的弱者である移民は団体に笑われるのではなく、救われる対象のはず。

そもそもキリスト様も移民。聖書によるとその生誕直後、ユダヤ国の王がキリスト様の命を狙っていると天使から知らされ、キリスト一家はエジプトやガリラヤで難民生活を余儀なくされた。

その時、トランプが避難先にいなくてよかったね。あるいは今のアメリカへ命からがら逃げようとしたら、トランプ好きなキリスト教徒は皮肉にもキリスト様本人を迫害しただろうね。 まあ、格闘技が強かったら話は違うかもしれないけど。キリスト選手の得意技はなんだろう? 「十字固め」かもね。

ポイント

THE FIRST RULE OF MIGRANT FIGHT CLUB: DO NOT TALK ABOUT THE MIGRANT FIGHT CLUB!
移民ファイト・クラブのルールその1。移民ファイト・クラブについて口外しないこと!(映画『ファイト・クラブ』のセリフのもじり)

UNLESS YOU'RE GINNING UP YOUR FOLLOWERS WITH XENOPHOBIC HATE SPEECH!
ただし自分のファンを外国人嫌悪のヘイトスピーチで盛り上げたい場合は除く!(持っているのはファイト・クラブに登場するせっけん)

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッカーファンに...フセイン皇太子がインスタで披露
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 5
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story