コラム

政敵「口撃」は今も昔も不変...だが昔はこんなに言い回しが「巧み」だった(パックン)

2022年05月10日(火)17時52分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
共和党のけなし言葉

©2022 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<現在では「民主党は小児性愛の党!」というような、センスも信憑性もない中傷に「退化」してしまっている>

日本のけなし言葉は地味だ。バカ、あほ、おたんこなす、ぐらいだっけ? 人を罵るなら、英語がいい。「バカ」に当たる単語は50以上ある。ニューヨークの街を歩くと半日でそのほとんどを耳にするよ。

しかも、こだわりたいときはあり物ではなく、自ら新しく開発したけなし言葉も使える。そしてそれが高く評価される。だからアメリカでは人をこき下ろす言葉が絶賛進化中だ!

風刺画には、歴代の共和党政治家が生み出したけなし表現が登場する。まず、1970年にニクソン政権のスピロ・アグニュー副大統領はNattering nabobs of negativism(べらべらしゃべる悲観主義の成り金)と野党民主党を斬った。Nの音を3回並べた面白い響きの単語で「民主党は口先ばかりの、アメリカ否定派のエリート層だ」という典型的批判をうまくまとめた表現だ。パックン独自のけなしスコアで90点!

1994年、下院議長に就任間近のニュート・ギングリッチはクリントン大統領夫妻をcounterculture McGoverniks(カウンターカルチャーのマクガバン野郎)と罵倒した。発音が同じCとKを使い、60年代に急進的リベラルの象徴だったジョージ・マクガバン上院議員と、相手をさげすむ表現に使う~niksをくっつけた造語を用いている。テクニックは悪くないが、クリントンは中道派の政治家。現実から離れているため、60点!

そして今年、マージョリー・テイラー・グリーン(MTG)下院議員は民主党をa party of pedophiles(小児性愛党)と中傷した。MTGは陰謀論集団「Qアノン」による「民主党の重鎮は子供の買売春をしている」という荒唐無稽な陰謀説の信奉者だ。バイデン大統領が指名した最高裁判事ケタンジ・ブラウン・ジャクソンに対しても共和党は「児童に対する性犯罪者に甘い」と無根拠に主張。MTGはジャクソン支持派を「小児性愛推進派」と断言した。最低限Pの押韻はあるが、独創性のない言葉にデタラメな名誉毀損のため、けなしスコアは0点!

政治家は政敵を批判することもあるだろう。そのときは、けなし大国の代表としてせめてプライドを持ち、文言に磨きをかけたい。でも国のけなし文化は進化しているのに、共和党のは退化してんじゃないか! この......おたんこなす!

ポイント

THE EVOLUTION OF REPUBLICAN NAME-CALLING...
共和党によるけなしの進化過程

COUNTERCULTURE MCGOVERNIKS
1994年の中間選挙で共和党を大勝させ勢いに乗っていたギングリッチの発言。ホワイトハウス職員についても「カウンターカルチャー的」だと根拠を示さず糾弾した。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ

ワールド

プーチン大統領と中国外相が会談、王氏「中ロ関係は拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story