コラム

米バイデン政権「コロナからの回復」のための法案に反対し続ける与党議員(パックン)

2022年01月12日(水)11時46分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
ジョー・バイデン大統領(風刺画)

©2022 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<「より良い形でアメリカを再建」することを目指すバイデン大統領だが、そうはさせまいと与党・民主党のマンチン議員が立ちはだかる>

アメリカ人は新年を迎えるとき、New Year’s resolution(新年の決意)を決める伝統がある。5キロ減量する! 無駄遣いをやめる! 家族ともっと時間を過ごす! などが一般的だが、1年たっても達成できず、Keep last year’s resolutions! 去年の決意を守る! という場合も多い。

バイデン大統領が就任した昨年、アメリカは危篤状態に陥っていた。コロナ禍が経済や公衆衛生に甚大な被害をもたらしていた。共和党が各州で民主党支持者に投票させない「投票抑制策」に励んでいたし、各州での票の「再集計」によって大統領選の結果を覆そうとしてもいた。

しかも、そういった急性の病だけではない。長年そっちのけにされてきたインフラ、教育、移民、税制などの問題も限界に迫りつつあった。基礎疾患を複数患っている人がバスにひかれて、搬送先の病院が爆発したかのような不運の連発で、まさに瀕死状態だった。

そこでバイデンは決意した! defeat pandemic(パンデミックを克服する)! defend voting rights(投票権を守る)! save democracy(民主主義を救う)! build back better(アメリカをより良い形で再建する)! こうした目標を掲げて救命治療に取り掛かった。

しかし、そんな与党の思うとおりにいかせまいと立ちはだかったのは......同じく与党のジョー・マンチン上院議員。上院の100議席中、50議席しか握っておらず、完全に団結しないと何もできない民主党の中で、繰り返し反対票を投じ続けている。医療チームの1人が患者のチューブを抜き続けている感じだ。

「給付金社会」になるのを防ぐため?

特に目立ったのは昨年12月、1兆7500億ドル規模の気候変動・社会保障に関連したBuild Back Better法案へ反対を表明したことだろう。高齢者向けの公的医療保険制度(メディケア)の拡充への支持率は80%、幼児教育無償化への支持率は69%で、この法案の内容自体は国民に大人気だ。

だが、マンチンは「給付金社会」になってはいけないという理由で立法を阻止した。皮肉にも、マンチンの地元ウェストバージニア州は貧困層や高齢者が多く、住民の収入の3分の1ほどが政府の支給に頼っている全米1位の給付金社会だ。地元への治療も拒否っているということだ。

党をまとめられない。法案を通せない。野党が有利とされる中間選挙まで11カ月しか残っていない。そんなバイデンは去年の決意を守りようがなさそう。では、今年の決意は? Slap Joe Manchin!(ジョー・マンチンをひっぱたく!)

それで何かが治るわけでもないけど、きっと気持ちがいいんだろうね。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story