コラム

BLMデモ参加者を射殺した白人男性が「無罪」になるアメリカに思うこと(パックン)

2021年12月07日(火)18時46分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
カイル・リッテンハウス(風刺画)

©2021 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<白人男性カイル・リッテンハウスは裁判で正当防衛が認められた。常に命の危険にさらされている黒人男性とは、社会における扱いの差は歴然だ>

白人男性が丸腰の人を射殺した後、正当防衛だと無罪を主張。こんな裁判が11月に2つ同時に行われ、全米の注目を集めた。

風刺画の左側に登場するのはカイル・リッテンハウス。当時17歳の彼は自動小銃を持って、地元を守るためだとして州境を越えてBLM(Black Lives Matter=黒人の人権を訴える運動)のデモ現場に入った。デモ参加者とけんかになり、相手の男性を撃ち殺した。そして銃を持ったまま警察官の前を通ったのに止められず、また2人撃ち、そのうち1人が死亡した。

言うまでもないが、同じアメリカ人の僕が17歳で暇だったときの過ごし方とだいぶ違うね。

結局、リッテンハウスは裁判で正当防衛を認められ、無罪になった上、保守メディアで「コミュニティーを守る勇敢な少年」としてヒーロー扱いされている。ある有名な共和党政治家は「司法の仮面をかぶった児童虐待だ!」と裁判をも非難した。怒っているのは児童虐待反対のためか、マスク(仮面)着用反対のためか分からないけど......。

風刺画の右側で墓石の下に眠っているのは黒人のアマード・アーベリー。彼は白人の住民が多い近所の道をジョギングしているとき、3人の白人男性に泥棒と間違われ、けんかの末に丸腰の状態で撃ち殺された。途中までは、20代の僕の夜の過ごし方とよく似ている。僕もよく白人の多いエリアをジョギングしていた。だが、言うまでもなく同じ結末になったことはない。肌の色が違うからではないだろうか。

風刺画は人種による「結果の違い」を明白に描写している。リッテンハウスは銃を持ったまま殺人現場から逃げたのに警察に止められなかった。アーベリーは丸腰で、走っているだけで一般人に止められた。リッテンハウスは撃った。アーベリーは撃たれた。リッテンハウスは英雄。アーベリーは永眠。

対照的だが、これらは単発的な事件ではない。黒人は警察に止められる確率も、犯罪者と思い込まれる確率も、警察にも一般人にも殺される確率も白人よりはるかに高い。アーベリーを殺した3人は裁判で有罪になったが、人種差別の根強い文化にも罪があると言えるだろう。

ポイント

WHEN A YOUNG WHITE MAN LEAVES HIS HOUSE...
若い白人男性が出掛けると...

I CAN CROSS STATE LINES, KILL PEOPLE WITH MY AR-15 AND BE LAUDED AS A SELF-DEFENSE HERO!
州境を越えてこのAR-15自動小銃で人を殺し、正当防衛のヒーローとして称賛を受ける!

WHEN A YOUNG BLACK MAN LEAVES HIS HOUSE...
若い黒人男性が出掛けると...

I CAN BE MURDERED FOR JOGGING!
ジョギングするだけで殺される!

AHMAUD ARBERY R.I.P.
アマード・アーベリー 安らかに眠れ

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米軍がホルムズ海峡封鎖へ、イランは交渉に戻る見通し

ワールド

ロシア・ウクライナ復活祭停戦、発効数時間で双方が違

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 2
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 3
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 6
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 7
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 10
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story