コラム

議会襲撃でわかった、アメリカはもはや「こんな国」(パックン)

2021年02月06日(土)14時40分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

A Belated Awakening / (c)2021 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<トランプの嘘や陰謀論を信じ込み、現実にあらがい暴力に走る――こんな醜い光景にも人々はもう驚かない>

This is not who we are! (こんなのわれわれの国じゃない!)。アメリカでは国民の自己認識にそぐわない事態に対して、よくこんな声が聞かれる。

Birtherism=「バラク・オバマはケニア出身!」という荒唐無稽な陰謀説をトランプ前大統領が広めたときにも聞こえた。

バージニア州のCharlottesville(シャーロッツビル)で白人至上主義者のデモに抗議する群衆に車が突っ込んで女性がひき殺され、トランプが白人至上主義者をかばったときも聞こえた。

不法移民として保護者から引き離され収容されているChildren in Cages(檻に入った子供たち)が何千人もいると報じられたときもその声は聞こえた。裁判所の中止命令にかかわらず当局が引き離しをやめず、昨年11月時点で700人近くの子供が親元に戻っていないと分かったときもだ。確かに、わが国が連続児童監禁事件の犯人だなんて思いたくない!

テキサス州エルパソ市の小売り大手ウォルマートの店舗で、陰謀説を信じ込んだとみられる白人男性がメキシコ人を標的に自動小銃で23人を射殺したEl Paso Massacre(エルパソの大虐殺)のときにも、その声は聞こえた。

ミネソタ州ミネアポリスの警察官が丸腰の黒人George Floyd(ジョージ・フロイド)を地面に倒し、首の上を膝で押さえ付けたときもそうだった。フロイドが「息ができない」と20回以上訴えた後「子供に愛していると伝えて」と言って息絶えても約8分もの間、首を押さえ続けた映像が出回ると、「こんなのわれわれの国じゃない!」の大合唱が起きた。

そして、トランプ支持者が首都ワシントンの警察官1人を撲殺したほか60人を負傷させた上、「副大統領に死を」と叫びながら連邦議会議事堂を占領したときにも、反発の声は多く聞こえた。

でも風刺画にあるとおり、もうこんな醜い光景にも驚かない人も多い。一連の事件を見て分かるはず。トランプの嘘や陰謀説を信じ込む人の国である。現実にあらがい暴力に走る人の国である。当局も権力者も不法に力を振るう国でもある。ここまでくれば、Who am I kidding?!(もうばかなことは言ってられない?!)──われわれはこんな国だと、諦めたくなる。

【ポイント】
BIRTHERISM
オバマ元大統領の出生(birth)に関する陰謀論の総称。一部の保守派が根強く主張しているが、具体的な根拠はない。

INSURRECTION
暴動、反乱のこと。昨今のニュースでは今年1月の連邦議会議事堂への襲撃事件を指す事が多い。

<本誌2021年2月9日号掲載>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「米国の和平案推し進める用意」、 欧

ビジネス

米CB消費者信頼感、11月は88.7に低下 雇用や

ワールド

ウクライナ首都に無人機・ミサイル攻撃、7人死亡 エ

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story