コラム

トランプvs下院議長、政府閉鎖でアメリカは大混乱(パックン)

2019年02月07日(木)18時45分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Shutdown Turmoil / (c) 2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<年末から政府機関の一部が停止する「政府閉鎖」に陥ったアメリカ。一部の職員には給与が支払われず、ゴミの回収も滞る事態は、いくらトランプでも自慢できない>

米大統領の一般教書演説を指すのが The State of the Union だが、直訳すると「合衆国の現状」になる。毎年1月に議会両院の議員を前にして行われるこの演説が今年は延期された。原因は、昨年末から続いていた record government shutdown(史上最長の政府閉鎖)とその中で過熱した大統領と下院議長との対立。

まずナンシー・ペロシ下院議長が警備の心配を口実に、政府閉鎖中は大統領を議会にお招きするなんてできないと、招待を撤回した。報復として大統領は、政府閉鎖が解消されるまで軍用機は使えないと通告し、ペロシの外国訪問を中止させた。ちなみに、同時期にメラニア大統領夫人は軍用機でフロリダ州の別荘マールアラーゴに飛んでいる。「夫婦閉鎖」の解消は既に諦めているのだろうか。

実は、演説を中止するという選択肢もなくはない。憲法には大統領が定期的に議会に報告する義務が定められているが、その報告は20世紀初頭までは書簡で行われていた。1913年にウッドロー・ウィルソン大統領が気付いたのは、演説ならば政策への支持集めに使えるということ。さらにロナルド・レーガン大統領が定着させたのが、演説でアメリカを褒めることだ。1983年に「The state of the union is strong(アメリカの現状は盤石だ)」とレーガンが断言したときから、同義の表現が毎回演説で使われるようになった。トランプも昨年、レーガンと同じ言葉を使った。

今回もそうしたかったはずだが、政府閉鎖中のアメリカの状況はみっともないものだった。給与がもらえない政府職員は炊き出しでしのいだ。沿岸警備隊は生活に苦しむ職員にガレージセールの実施を勧めた。FBIはタイヤが買えなかった。食品医薬品局は食品検査が、国土安全保障省は空港の保安検査がまともにできていなかった。国立公園局はゴミの回収ができなかった。

首都ワシントンもゴミだらけだったことを指し、風刺画はトランプ政権下のアメリカの現状を揶揄している。いくら事実にこだわらないトランプでも、これでは自慢できなかったのだろう。

1月25日にようやく閉鎖は解消され、一般教書演説は2月5日に行われる。でも、この風刺画はまだ捨てないほうがいい。2016年大統領選挙へのロシアの介入を調べるロバート・ムラー特別検察官の調査が大詰めを迎えているからだ。200件以上の重罪で30人以上が起訴されている。残るは大物一人。今回の風刺画ではトランプがゴミ箱に入っているが、それをブタ箱に描き直すと次回に使えるかもしれないね。

<本誌2019年02月12日号掲載>

※2019年2月12日号(2月5日発売)は「袋小路の英国:EU離脱3つのシナリオ」特集。なぜもめている? 結局どうなる? 分かりにくさばかりが増すブレグジットを超解説。暗雲漂うブレグジットの3つのシナリオとは? 焦点となっている「バックストップ」とは何か。交渉の行く末はどうなるのか。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story