コラム

弱者に強く、強者にへつらう「器の小さな大国」中国の愚かな外交

2023年01月23日(月)12時24分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
パンダ

©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<ビザ発給の緊急停止を「差別」への対抗措置と主張するが、同じ対策を取る欧米には採用せずに日本と韓国のみ。この復讐的な外交政策を喜ぶのは、中国嫌いの人々だけという結果に>

日本にとって中国は国土面積でも歴史・文化でも大国だ。特に古代中国から学ぶことは多く、かつては師匠のような存在だった。でも、近年この大国はなんだか器が小さくなったような気がする。

例えば、最近ニュースになった日本人向けビザ発給の緊急停止。中国政府は日本が中国人を差別したことによる対抗措置と主張しているが、その「差別」とは、新型コロナウイルスの感染が急拡大した中国からの渡航者に対して、全員入国検査を実施する水際対策のこと。

3年前に中国で新型コロナの感染が始まった時、日本はしばらく中国人の入国を受け入れ続け、国内で中国人観光客の感染者が現れた時も、無料治療などの人道援助を提供していた。そして、今も中国に対しては入国禁止ではなく、全員に検査を実施し、陽性者が現れた時に無料で隔離しているだけだ。

それなのに、外務省の戦狼外交官たちは「差別だ!」「科学的な事実を無視した意図的な政治操作だ」と怒り狂った。しかも、欧米諸国も同じ対策を実施しているのに、アジアの隣国である日本と韓国にだけ報復的な措置を採用した。

強い欧米列強に逆らえないのであれば、この大国はただ理不尽なだけではなく、弱者に強く当たり強者にへつらう国ではないか。

日本人向けのビザの発給停止は、「石を持ち上げて自分の足を打つ」ようなものだ。中国嫌いの人や、中国に無関心な人はもともと中国へ行く気はないだろう。報復的ビザ発給停止で困るのは、中国好きな人や中国と貿易上の往来がある人々。中国人民の古くて良い友人がみんな入国拒否となる。

中でも最もかわいそうなのは、日本に帰化したが相変わらず母国を愛する「精神的な中国人」たちだ。彼らはこの報復的な外交政策のせいで、今年の春節(旧正月)は母国に帰ることができない。

多くの人たちはコロナ禍の3年間帰国できておらず、その精神的な打撃に耐えられないだろう。むしろ、この復讐的な外交政策を最も喜んだのは、「さっさと中国と絶交しろ」と叫んでいた中国嫌いの人々だ。

味方が悲しみ、敵が喜ぶ──。愚かな大国の外交は、まるで自分を刺すつもりの敵に自ら刀を渡しているようだ。

ポイント

暂停签证/我中国
入国ビザの一時発給停止/私は中国が大好き

戦狼外交官
中国外務省の外交官による攻撃的な外交スタイル。中国のアクション映画『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』に由来。

石を持ち上げて自分の足を打つ
「搬起石头砸自己的脚」。中国のことわざで、人に損害を与えようとして自業自得の結果となること。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story