コラム

中国、政府批判をすれば「精神科」に強制入院、薬物投与が疑われる事例も

2022年01月19日(水)17時43分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
『君よ憤怒の河を渉れ』(風刺画)

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<共産党の意に反する行動をすれば「精神病患者」として強制入院させられる中国社会と、高倉健が主演した日本の名作映画の共通点>

李田田(リー・ティエンティエン、風刺画の右)は中国・湖南省の貧しい山村にある小学校の教員だ。彼女がまだ小学生だった時、通っていた小学校を訪問した複数の日本人と出会い、彼女の作文に感動した2人が小学校4年生から大学卒業まで、彼女を経済的に援助した。

「家は貧しかった。2人の日本人のお姉さんの経済的援助のおかげで大学を卒業できた」と、彼女は言う。日中国交正常化後、中国の貧しい農村部に住む子供たちを長期的に経済支援した日本人は多い。成人した李田田は立派な国語教師になった。個人で詩集を出版する優れた詩人でもある。

昨年12月、上海で専門学校の教師が授業中に、1937年の「南京事件」の犠牲者数について「データがない」と発言して生徒に告発され、除籍処分を受ける騒ぎがあった。責任感の強い李田田はSNS上でその教師を応援したが、地元当局に呼び出され、強制的に精神科病院に入院させられた。

「精神病患者」というレッテルを貼られ、家族との面会もできず、携帯電話も没収された。幸い、下着の中に隠して持ち込んでいたもう1つの携帯を使い、ネットで救助を求めた。地元当局は炎上を恐れて彼女を家に帰らせた。

帰宅した時には「まるで別人」に

強制的に精神科病院に入院させられたのは李田田だけではない。2018年には別の湖南省出身の若い女性が、共産党の一党独裁政権に反対するために上海で習近平(シー・チンピン)国家主席の写真に墨汁をかけて逮捕され、当局によって精神科病院に収容された。1年半後に精神科病院から帰宅した女性は顔がむくんで目が据わり、全く別人のようだった。「精神科病院で薬物を投与されたのではないか」と家族は疑った。

「日本映画『追捕』の完全な現実版だ! 日本の映画はフィクション、中国はノンフィクションだけど」(中国のネットユーザー)

中国でかつて『追捕』の名前で公開された日本映画『君よ憤怒の河を渉れ』には、登場人物が精神科病院に強制入院させられ、投薬で廃人同然のようにされる場面がある。政府の言うことに逆らって無実の罪で捕まる人たちの姿を見て、中国人はますます口を閉ざすようになった。だが李田田たちのような人もまだ存在する。「憤怒の河を渉る」中国人は増えるだろうか?

ポイント

『追捕』
高倉健(風刺画の左)が主演した1976年の日本映画『君よ憤怒の河を渉れ』の中国語名。1979年、中国で文化大革命後初の外国映画として公開され大ヒットした。今も一定年齢以上の中国人に強い印象を残している。高倉演じる検事が冤罪を晴らそうとするストーリーに、文革で無実の罪を着せられ苦しんだ多くの中国人が共感したといわれている。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日仏首脳会談、イラン情勢「早期沈静化に向けた意思疎

ビジネス

米住宅ローン金利、6.57%に上昇 昨年8月以来の

ワールド

ロシア 、 ドンバス地域のルハンスク州完全掌握と発

ビジネス

英3月製造業PMI低下、中東紛争でコスト急上昇
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story