コラム

「格差を伴う発展」か「みんなで貧困」か、中国を悩ます永遠のテーマ

2021年09月08日(水)19時51分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
共同富裕(風刺画)

©2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<習近平による「共同富裕」方針の背景には、社会の「資本批判」も。ただ中国は平等をめぐって失敗を繰り返してきた歴史を持つ>

習近平(シー・チンピン)国家主席は最近、「共同富裕」という方針を打ち出した。高過ぎる所得の調整や、高所得の個人・企業に対して社会への還元を促す新方針──だが、そもそも中国が今も(建前上は)掲げる共産主義の核心は「財産を共同所有する平等社会」の実現にある。

1949年の建国以来、共産党政権は何回も共同富裕の実現を目指してきた。例えば1950年の土地改革法は、農村の地主たちの私有地を没収して、無償で貧しい農民たちに再分配した。地主などの富裕層はもともと農村のエリートとして地域の秩序維持や文化伝統の継承も担っていたが、この運動で地主と彼らが維持・継承してきた秩序や伝統は崩壊した。

そして1958年に実現不可能な目標を掲げた大躍進運動と人民公社制度が始まり、農民たちに配ったばかりの土地は再び政府に回収され、集団所有となった。農民たちは皆人民公社で共同労働・共同炊事を始めたが、大躍進運動の混乱と干ばつが相まって、共同富裕どころか数千万人が餓死するという大惨事を招いた。まさに「富を再分配することは、結局貧困を再分配することになる」という、米経済学者トーマス・ソウェルの言葉どおりだ。

72年間の共産中国史を振り返れば、生活が向上したのは、経済改革を目指して「先富論」を掲げた鄧小平時代だけだった。急速な経済発展が深刻な格差社会をつくり出し、今回の共同富裕がその解決策として打ち出されたことは言うまでもないが。

共同富裕の前奏曲なのか、中国ネット世論も「資本崇拝」から「資本批判」へと変わってきた。アリババの創業者である馬雲(ジャック・マー)を見れば分かる。2、3年前は「馬爸爸(馬お父さん)」とみんなに尊敬されたが、今では「資本家を代表する吸血鬼」と罵倒され、人民の敵扱いされている。

経済格差は資本家のせいなのか。共同富裕の核心が富の再分配であるなら、政府は資本家を悪者にすることで、自らの無能や無策を覆い隠し、富の再分配も正当化できる。ただし歴史を見れば、国家権力が暴走する社会において、共同富裕の受益者はいつも権力者だった。普通の人々は結局、「共同貧困」に陥ることになる。

ポイント

大躍進運動
1958年に始まった急進的社会主義建設運動。生産目標を高く設定したが、地方政府幹部による虚偽報告が相次ぎ、農村経済が混乱。食糧不足と大飢饉を招いた。

馬雲
1964年浙江省生まれ。アリババグループの創業者。数学が苦手で大学受験に2回失敗した。英語教師を経て99年にアリババを創業。2019年にアリババグループ会長を退任。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルとの会談「無意味」、ヒズボラ指導者 レバ

ワールド

イタリア、トランプ氏の教皇批判に反発 メローニ首相

ワールド

イタリア、トランプ氏の教皇批判に反発 メローニ首相

ワールド

石油備蓄放出、「必要なら行動する用意」=IEA事務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ「EV撤退」が示す、日本が失った力の正体
  • 2
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目のやり場に困る」姿にネット騒然
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 5
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 6
    トランプがまた暴走?「イラン海上封鎖」の勝算
  • 7
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 8
    「違法レベル...」ゼンデイヤの「完全に透けて見える…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音楽市場で…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story