コラム

生徒が教師を告発、芸能人の「推し活」を規制...習近平の「文革」の中身

2021年09月21日(火)19時29分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
毛沢東と習近平(風刺画)

©2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<毛沢東による文化大革命と、不気味なほど符合する習近平の方針。中国はあの恐るべき歴史を繰り返そうとしているのか>

「文革2.0時代は本当に始まったのか」──今の中国ネットで最も注目されている話題である。

学校の先生が政府を批判したら、すぐさま生徒が告発する。歴史学者が共産党史や新中国の歴史を疑問視したら、「歴史虚無主義」として批判され、アカウントを凍結される。先日は、ある人気俳優が何年か前にSNS上に投稿した1枚の日本旅行の写真を基に告発された。撮影場所が靖国神社だとネットユーザーらに特定されたからだ。

大連では日本式複合商業施設「盛唐・小京都」が突然休業した。古き良き日本情緒を大連に再現するため、地元政府の許可を得た60億人民元のこのプロジェクトは、オープンして1週間もたたないうちに閉じてしまった。

10年前だったら、こういった民族主義的風潮に対して、必ず「公共知識人」と言われる自由派の人々が批判し、最低限の言論空間を保つことができた。だが習近平(シー・チンピン)政権になって以来、自由派たちは逮捕されたか口を封じられ、中国ネットではますます極端な主張がはびこっている。

芸能界とスターのファンに対する管理強化や「共同富裕」「第3次分配」の方針も富裕層を不安にさせている。特に「文革2.0」到来を感じさせたのは、李光満(リー・コアンマン)という人物の個人投稿だ。李は定年退職した元編集者だが、政府の一連の政策を「重要な変革」「人民のための変革」と賛美した彼の投稿が、官製メディアに次々シェアされた。

このやり方は、人々に文化大革命を思い出させた。毛沢東も北京大学の講師だった聶元梓(ニエ・ユアンツー)に大学当局を批判する壁新聞を掲示させ、文革の闘争を本格化した。「外国かぶれ」を打倒するのも紅衛兵の常套手段だった。

文革は毛沢東が自らの権力を固めるために仕掛けた大衆運動だ。そして、習近平は毛のまねが好きだ。国家主席終身制と個人崇拝......。党内の反対派を粛清するため習が徹底的に毛を見習い、「文革2.0」を仕掛ける可能性は十分ある。

毛の妻で文革を主導した「四人組」の1人だった江青は元女優、習の妻である彭麗媛(ポン・リーユアン)は元歌手である。何とも不気味な一致だ。

ポイント

第3次分配
市場原則に基づく経済活動による富の分配を第1次、政府の徴税や社会保障による再分配を第2次、個人や団体が寄付や慈善活動で富を分与することを第3次分配とする考え方。

聶元梓
1921年河南省生まれ。北京大学講師だった1966年、大学指導部を批判する壁新聞を学内に掲示。毛沢東が評価し、造反派のリーダーに祭り上げられた。文革終了後の78年に逮捕。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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