コラム

怪しげな漢方で中国の伝統復興?

2019年05月31日(金)17時30分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

China’s Crazy Remedy / (c)2019 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<日本人は漢方に対して特に抵抗がないようだが、発祥地の中国ではいつも賛否両論になる>

米中貿易戦争真っただ中のいま、中国の米国製品への報復関税、特に糖尿病治療用のインスリンを含む医薬品の25%への関税引き上げが物議を醸している。

「これは一体米国への報復なのか、それともわれわれ庶民への報復なのか」「なぜ贅沢品じゃなく、西薬の関税を引き上げるの? 中医復興のため?」。「西薬」とは西洋の薬、漢方薬は中国語で「中薬」と呼ぶ。中医とは中国の医学、漢方を指す。

日本人は漢方に対して特に抵抗がないようだが、発祥地の中国ではいつも賛否両論。中国のSNS上で中医の話題を持ち出すと、決まって賛成派と反対派の口げんかになる。

賛成派は中医が中国の優れた伝統文化で、ノーベル生理学・医学賞を受賞した屠呦呦(トゥー・ヨウヨウ)も伝統的中国医学を学んだと主張。反対派は何の科学的な根拠もない偽物だ、先祖代々だと自称する民間の年老いた漢方医を見れば分かると猛反発する。

確かに民間の漢方医には荒唐無稽な処方が多い。例えばかまどの灰をお湯に入れ、子供に飲ませて消化不良を治すとか、「童子尿(男児の尿)」を飲む療法は病気が治るだけではなく、健康促進にもなるという。この飲尿療法に頼る人はかなりいるらしい。今でも浙江省東陽市では、「童子蛋」というゆで卵が地元名物として高く売られている。童子蛋売りのおばあさんは「童子蛋はいかがですか。スープでもおいしいよ!」と声を掛けるが、「スープ」は卵を煮込んだ童子尿のことだ。

中国は今、「中国の夢」の実現を目指して「伝統文化を全面復興せよ」と呼び掛けている。漢方も伝統文化の一部として政策的に手厚く保護されており、保険の適用対象でもある。その結果、中国の病院では西洋薬より漢方薬のほうに長い列ができる。漢方薬のほうが値段が安いからだ。

中国政府は、漢方をもっと推進するため、伝統的な漢方の処方箋を基にした新薬を売り出す場合、臨床試験の免除も可能と発表した。病院や漢方業界にとってはうれしいニュースだが、患者にとって福音かはどうか全く疑問。伝統復興と人間の命のどっちが大事なのか、言うまでもないことだ。

【ポイント】
屠呦呦

1930年浙江省生まれ。北京大学薬学科を卒業後、中国伝統医学を学び、抗マラリア薬アーテミニシンを発見。15年に、本土で研究を続けた中国人として初のノーベル賞を受賞した。

童子蛋
「男子の卵」の意味。浙江省東陽市で数百年続く伝統料理で、男子の尿でゆでた卵の殻にひびを入れ、さらに煮込んで1日がかりで作る。10歳以下の男の子の尿が珍重される。東陽市の無形文化遺産。

<本誌2019年06月04日号掲載>

20190604cover-200.jpg
※6月4日号(5月28日発売)は「百田尚樹現象」特集。「モンスター」はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか。『永遠の0』『海賊とよばれた男』『殉愛』『日本国紀』――。ツイッターで炎上を繰り返す「右派の星」であるベストセラー作家の素顔に、ノンフィクションライターの石戸 諭が迫る。百田尚樹・見城 徹(幻冬舎社長)両氏の独占インタビューも。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米消費者の燃料費、停戦合意でも夏の行楽期いっぱい高

ワールド

トランプ氏、NATOのイラン対応に不満表明 事務総

ワールド

欧州・中央アジア新興国、今年は景気急減速に直面 中

ビジネス

米オープンAI、年内予定のIPOで一部を個人投資家
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 4
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 5
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 6
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    アメリカとイランが2週間の停戦で合意...ホルムズ海…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 9
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 10
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story