コラム

中国が「聖誕節(クリスマス)」をやめた理由

2019年01月18日(金)14時30分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

Santa Claus Isn't Coming to Town / (c) 2019 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<ここ数十年の間に、中国各地でキリスト教徒、キリスト教会が増えたことを、中国政府は怖がっている>

「抵制洋節是文化自卑(西洋の祭りをボイコットするのは西洋文化に劣等感があるからだ!)」。18年の年末、中国の名門・北京大学のキャンパスで、1人の青年がマスクをかけ、抗議書を持ちながら無言のまま立っていた。

18年の「聖誕節(クリスマス)」の中国はいつもより寂しかった。普段なら、セールやパーティーで中国の町はクリスマスの色彩に覆われる。この西洋の祭りの人気は中国伝統の春節と肩を並べるほどだ。しかし、18年は状況が一変した。各地方政府は「町の公共場所でクリスマスの飾りは禁止」という命令を出した。学校の先生も学生たちを率いて、「私は中国人、中国人は中国の祭りを祝い、中華民族の伝統を守る。西洋の祭りを遠ざけ、お祝いはしない」と誓った。

なぜこんな誓いが? それは17年に中国政府が「中国の優秀な伝統文化を伝承・発展するプロジェクトの実施に関する意見」という指示を出したからだ。確かに政府の指示には西洋の祭りを禁止すべきという明言は一切なかったが、地方の役人は指示の真意をきちんと理解して、クリスマスを厳しく取り締まり始めた。中国式の「あうんの呼吸」というべき役人文化だろう。

この数十年間、キリスト教徒が増えるにつれ、中国各地でキリスト教会も増えていた。政府はこれをすごく怖がった。中国の歴史を見れば分かるだろう。中国の王朝の移り変わりは、いつも信仰の移り変わりから始まるのだ。

キリスト教会の閉鎖が相次ぎ、教会取り壊しや聖書を燃やすなどの宗教弾圧事件もネットに流れている。徹底的に取り締まるつもりなのか、今度はキリスト教徒でなく、ただ単純に西洋の祭りの娯楽性が好きな子供と若者に対しても、伝統文化を守ろうというカードを切ってクリスマスをはじめとする西洋の祝祭を禁止し始めた。

ただあまりに度が過ぎるので、中国のネット上には不満の声があふれている。中にはこんな皮肉な投稿もあった。「クリスマスなどの西洋の祭りをボイコットするのは、西洋の価値観が嫌いだからだろう? そうならさっさとマルクス主義もやめよう。あれは中国の伝統ではなく西洋のものだよ!」

【ポイント】
「中国の優秀な伝統文化......に関する意見」

17年1月に共産党と国務院が地方政府宛てに通知。「春節など伝統的祝日を振興するプロジェクトを実施し、豊かな祝日の習わしをつくる」ことを求めた。

キリスト教会の閉鎖
中国憲法は表向き信仰の自由を認めているが、政府非公認の「地下教会」の弾圧を強化。信者の拘束や教会の閉鎖、聖書の焼却を続けている。18年12月にも成都で160人が拘束された。

<本誌2018年01年22日号掲載>

※2019年1月22日号(1月15日発売)は「2大レポート:遺伝子最前線」特集。クリスパーによる遺伝子編集はどこまで進んでいるのか、医学を変えるアフリカのゲノム解析とは何か。ほかにも、中国「デザイナーベビー」問題から、クリスパー開発者独占インタビュー、人間の身体能力や自閉症治療などゲノム研究の最新7事例まで――。病気を治し、超人を生む「神の技術」の最前線をレポートする。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、和平合意後も軍隊と安全保障の「保証」必

ビジネス

欧州外為市場=ドル週間で4カ月ぶり大幅安へ、米利下

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理

ワールド

米ウ協議の和平案、合意の基礎も ウ軍撤退なければ戦
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story