コラム

米ロ首脳会談の勝者はプーチンか、バイデンか

2021年07月03日(土)16時21分

首脳会談終了後、記者会見に応じるプーチン(6月16日)ALEXANDER ZEMLIANICHENKOーPOOLーREUTERS

<「米大統領をたたきのめす我らがリーダー」を期待していた愛国主義的ロシア人の願いはかなわなかったが......>

米ロ首脳会談が6月16日に始まったとき、私はクレムリンのすぐ近くでコーヒーを飲みながら、ロシア人の友人が携帯電話で見せてくれたバイデン米大統領のミーム(ネット上で拡散する画像やフレーズなど)を眺めていた。

この友人の一番のおすすめは画面を2分割したミームで、片方は首脳会談中のバイデンが自分の手をちらりと見ている写真。もう片方はロシアのプーチン大統領の名前を書いた手書き文字の画像だった。

1年ちょっと前にバイデンが民主党の大統領候補指名を確実にすると、ロシアの友人の多くはバイデンで大丈夫なのかと問い掛け、知力の衰えを指摘した。首脳会談前の彼らは、プーチンとバイデンのミスマッチを期待して面白がっているようだった。

バイデンは本格的な首脳外交デビューとなったG7サミットで多忙なスケジュールをこなした後、最も経験豊富な国際政治の大物と対峙することになる。一方、プーチンはクリントン以降の全ての米大統領と派手にやりあった経験を持ち、国際政治の主役の1人であり続けている。

愛国心の強いロシア人の友人の1人は、シャープでエネルギッシュなプーチンが「スリーピー・ジョー」をたたきのめす場面を想像して舌なめずりしているようだった。

だが今回の首脳会談では、パフォーマンスに極端な差はなかった。プーチンが2国間に信頼の「兆し」が見えたと述べると、バイデンは即座に「これは信頼の問題ではなく、自己利益の問題だ」と強調した。

会談前のバイデンは首脳会談という晴れ舞台をプーチンに提供したことや、ロシアとドイツを結ぶパイプラインに関連した制裁を見送ったことでアメリカの対ロシア強硬派を激怒させ、苦しい立場に追い込まれていた。

一方で、中東に対するロシアの影響力や米中対決、核軍縮などの問題を考えると、米ロ関係をこれ以上悪化させるわけにはいかなかった。バイデンはこの難しい綱渡りを成功させ、国際舞台で十分に通用することを証明した。実際、友人のロシア人愛国主義者は首脳会談後、この話題に全く触れなくなった。

ただし、この会談はプーチンにとってもプラスだった。今のロシアはG8から追い出され、欧米からほとんどのけ者にされている。世界的な威信の失墜は、プーチンの名声に打撃を与えていた。だが米ロ首脳会談の終了後、すぐさまEUの2大国フランスとドイツが同様の首脳会談を呼び掛けた。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米消費者信用リスク、Z世代中心に悪化 学生ローンが

ビジネス

米財務長官「ブラード氏と良い話し合い」、次期FRB

ワールド

米・カタール、防衛協力強化協定とりまとめ近い ルビ

ビジネス

TikTok巡り19日の首脳会談で最終合意=米財務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story