コラム

ワクチン接種が進まない日本へ送るアメリカ人の応援歌

2021年06月02日(水)15時00分

日本のワクチン接種が一挙に加速して、東京五輪中止論者を黙らせる? KIM KYUNG HOONーREUTERS

<国務省の「渡航禁止」勧告によって公然と恥をかいた日本だが、コロナ対策で必ず巻き返す力を持っている>

日本を訪れたときの忘れ得ない思い出はいくつもあるが、その中でも特に深く記憶に刻まれている出来事が2つある。

1つは、ある朝、東京の六本木ヒルズにあるスターバックスで経験した出来事だ。まだ時差ぼけが抜けない妻が、買ったばかりのコーヒーを床にこぼしてしまった。すると、妻が紙ナプキンを取りに行こうとするよりも早く、すぐに代わりのコーヒーが用意され、床のコーヒーもいつの間にかきれいに拭き取られていた。

とてもテキパキとしたスムーズな対応だった。丁重な物腰でさりげなくコーヒーのカップを手渡されて妻が目を丸くしている間に、片付けは全て終わっていた。誰かが掃除してくれていることに気付く暇すらなかった。これが「職人」の仕事ぶりだと、このとき私を東京に招いた米国務省のベテラン職員は説明した。

その日本がいま新型コロナウイルス感染症への対応に苦戦しているのを目の当たりにして、私は信じ難い思いでいる。

とりわけ問題視されているのがワクチン接種の遅れだ。戦争に匹敵する非常時であるにもかかわらず、日本の政府はワクチンの承認プロセスを十分に加速させてこなかった。

ワクチンの安全性と有効性を確保することは極めて重要だが、慎重な承認プロセスを維持したことが原因で、日本は大きなツケを払わされている。ファイザー製のワクチンが承認されたのは、アメリカで使用が許可されてから2カ月遅れだった。

アメリカが素早くワクチン接種を進められたのは、官僚主義の徹底した破壊と仰天のアイデアだ。連邦政府と民間企業が強制的に連携され、接種者に巨額の賞金を出した州もある。ほかの先進国から大きく遅れていながら、日本はこうした大胆な政策を打ってこなかった。

しかし、日本はきっと巻き返すと、私は思っている。日本でのもう1つの忘れ難い経験がその理由だ。東京五輪の中止を求める声が高まっているが、そうした論者は驚かされることになるだろう。

私がその経験をしたのは、日本の政財界の有力者の前でアメリカ政治について講演したときだった。講演を聞いていた有力者のコメントに対して、私はデータと歴史上の事例をふんだんに挙げて強力に反論した。いささか直接的で、ぶっきらぼうな言い方をしたかもしれない。

講演の後、私は力強く自説を展開できたことにかなり満足していた。ところが、ある米国務省官僚にたしなめられた。私の態度は公衆の面前で相手に恥をかかせるものだ、というのだ。私としては率直な議論のつもりだったのだが、相手の日本人のメンツをつぶしてしまったのである。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

シリア外相・国防相がプーチン氏と会談、国防や経済協

ビジネス

円安進行、何人かの委員が「物価上振れにつながりやす

ワールド

ロシア・ガスプロム、26年の中核利益は7%増の38

ワールド

英、農業相続税の非課税枠引き上げ 業界反発受け修正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story