コラム

経済政策をめぐる米民主党の「内紛」が共和党にとって厄介な理由

2021年03月06日(土)12時30分

民主党内の左派と穏健派の政策論争がバイデンを助ける可能性も KEVIN LAMARQUEーREUTERS

<左派系の政策に対する穏健派の反発で内紛勃発との見方もあるが、激しい政策論争は大型選挙に向けた資産になる>

2020年大統領選の予備選で穏健派のジョー・バイデン現大統領が左派のバーニー・サンダース上院議員を大差で破り、民主党内の路線対立は沈静化したかに見えた。

ところが、再び内紛が激化するのではないかという観測が持ち上がっている。バイデンが左派の主張に沿う形で最低賃金の大幅な引き上げを打ち出したことに対し、穏健派議員が反対の動きを見せているのだ。最低賃金だけでなく、移民政策や学生ローン救済策など幅広い問題で、左派と穏健派の対立が浮上しつつある。

しかし、意外に聞こえるかもしれないが、こうした党内対立は今後の選挙で民主党に恩恵をもたらす可能性がある。

歴史を振り返ると、大統領選の2年後に実施される中間選挙では、大統領の与党が苦戦を強いられてきた。連邦議会の上下両院で議席を増やしたのは、近年では02年の息子ブッシュ元大統領時代の共和党だけ。下院では、18年のトランプ前大統領(共和党)も、10年のオバマ元大統領(民主党)も、94年のクリントン元大統領(民主党)も大幅に議席を減らしている。現在、民主党の議席は、上院では共和党と同数、下院でも共和党より10議席多いだけだ。

もし過去のパターンどおりになれば、2022年の中間選挙で民主党は議会の少数派に転落する可能性が高い。だが、こうした歴史の法則は今の民主党には当てはまらないかもしれない。理由は主として2つある。

第1に、民主党に「過激な左派」というレッテルを貼ろうとする共和党の作戦は失敗する可能性が高い。民主党内の政策論争ではほとんどの場合、(左派よりも)穏健派の主張が通ると予想できるからだ。大統領選でバイデンが現職のトランプに勝てたのは、無党派層の有権者から「穏健派の実務型政治家」と思われていたからにほかならない。

それに今後、議会での民主党の方針決定に大きな影響力を持つのは、中道志向の有権者の意向を強く意識して行動する上院議員たちなのだ。最も注目すべきなのは、ウェストバージニア州選出のジョー・マンチン上院議員。マンチンは同州知事時代から、選挙ではいつも対立候補に40%以上の大差をつけて圧勝してきた。しかし、18年の中間選挙は3%差の辛勝だった(16年の大統領選では、同州でトランプが圧勝していた)。

マンチンは民主党の議員でありながら、共和党議員とほぼ変わらない立場を取っている。現在の連邦議会の議席割合では、民主党が何らかの法案を可決したくても、党所属の上院議員が1人でも反対に回れば法案は通らない。従って、マンチンが賛成できないような極端に左派的な法案が提出されることは考えにくい。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米クラウドフレアで一時障害、XやチャットGPTなど

ワールド

エプスタイン文書公開法案、米上下院で可決 トランプ

ビジネス

トヨタ、米5工場に1400億円投資 HV生産強化

ビジネス

ホーム・デポ、通期利益見通し引き下げ 景気不透明で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story