コラム

時代遅れでポンコツのアメリカ大統領選挙はこう変えよ

2020年11月08日(日)09時00分

党派的選択 トランプとバイデンのテレビ討論会を見 守る人々(10月22日)MIKE BLAKEーREUTERS

<お祭り騒ぎの選挙集会や瞬発力がものを言う討論会でリーダーの資質は見抜けない。本当の勝者を選ぶにはスポーツとサバイバル番組の要素が必要>

11月3日のアメリカ大統領選投票日は、アメリカ現代史の中で政治的主張が最も激しくぶつかり合った日として歴史に記憶されるかもしれない。

しかし、この政治的論争と対立の時代に、大半の人の意見が一致することがある。それは、アメリカ大統領の選考方法が大統領の重責と釣り合っていない、という点だ。現在の選挙システムでは、大統領が有権者の失望を買うことが避けられない。アメリカは大統領選びの方法を考え直すべきだ。

20201110issue_cover200.jpg

現在の選挙プロセスは、候補者の統治能力とは全く関係のないことをめぐる争いに終始している。大統領選を勝ち抜いて大統領の座を手にするのは、選挙運動を最も上手に行った候補者だ。それが「よい大統領」になる資質を持った人物だとは限らない。アメリカ大統領は、軍の最高司令官、行政機構の最高責任者、国民の声の代弁者、与党の指導者、世界のリーダーなど、実にさまざまな重い責務を担っている。

しかも近年、大統領が対処しなくてはならない課題は、より手ごわく、より多くなっている。それなのに、現状の大統領選びのプロセスでは、こうした難題に対処する実務能力の持ち主がホワイトハウスの主になる保証がない。

大統領選の仕組みを変えるべきだといっても、有権者が国のリーダーを選ぶ権利を否定し、政治学者に人選を任せろと言いたいわけではない。むしろ、イデオロギー対立の影響を弱めることにより、一般市民が担う役割を強めるべきと、私は考えている。

有権者は資質を軽視?

2017年にドナルド・トランプが大統領に就任した9カ月後、ワシントン・ポスト紙とメリーランド大学が共同で実施した世論調査は、政治リーダーに対する国民の根深い不信感を浮き彫りにした。この調査によれば、政治家の倫理観と高潔性について好ましいと評価をしている人は14%にすぎない。

71 %の人は、アメリカの政治は落ちるところまで落ちてしまったと考えている。しかも、大多数の人は、この状態が一時的な現象ではなく、ずっと続くとみている。最近の世論調査によれば、トランプとジョー・バイデンのどちらが今回の大統領選で勝っても、アメリカ人のなんと40%はその人物を正当な勝者と認めるつもりがない。

どうして、こんなことが起きているのか。大半のアメリカ人は、自分と異なる政党の支持者が生きている世界を想像することすらできなくなっているのだ。直近2人の大統領に対する野党支持層の支持率は驚くほど低い。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領や北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長よりも人気がないくらいだ。

アメリカの政治的二極化が進んだ結果、大多数の国民は政治的イデオロギーに基づいて選挙で一票を投じるようになっている。最も有能な候補者に投票したと主張するかもしれないが、実際には低レベルの党派的選択をしているにすぎない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story