コラム

醜悪な討論会の「勝者」は誰か、トランプ感染は大統領選をどう変えるか

2020年10月05日(月)16時00分

magw201005_Debate2.jpg

トランプ夫妻が入院した病院の前に駆け付けた支持者 ALEX EDELMAN/GETTY IMAGES

討論会の司会を務めたFOXニュースのクリス・ウォレスは、過去の司会ぶりを高く評価されていたが、今回は無力だった。ウォレスは討論会の半ば過ぎ、両候補がルールを守ればアメリカ国民は恩恵を受けると嘆いた。討論会後のインタビューでは、敗者はアメリカ国民だと語った。

では、なぜ中国が勝者なのか。貿易やテクノロジーなどの分野で米中戦争をエスカレートさせる現職大統領を相手に世界の覇権を争う中国にとって、70代の2人の候補者による混沌とした罵り合いを世界の他の国々に見せることは理想的な展開だった。この討論会で、どちらの候補者も未来志向の解決策を提示していない。まさに衰退する「老人支配」の典型だった。

トランプのほうが紛れもなく不謹慎で下品だったが、バイデンもひどかった。「黙ってくれないか?」「あなたは道化だ」「嘘つきだ」「アメリカ史上最悪の大統領だ」という現職大統領への罵倒は、まるで映画に出てくる外国人の悪役のようだった。

討論会で最も忘れ難いトランプの発言は、今回の大統領選は不正選挙になるという主張だった。世界最強の民主主義国家の現職大統領が、選挙がどのようにして違法なものになるかを語ったのだ。中国政府にもできないことを、アメリカの大統領が自分でやってのけた。

では、2人の候補者のうちで勝ったのはどちらか。

バイデンだ。バイデンは民主党の候補者指名を獲得して以降、支持率で一度もトランプに抜かれていない。そこで、大きな失言や混乱、失態を避け、このまま1カ月後の投票日までリードを保つことが最大の目標になる。

よく言われることだが、大統領選で現職に挑む挑戦者には3つの正念場がある。副大統領候補の人選、党大会での指名受諾演説、そしてテレビ討論会だ。バイデンはカマラ・ハリスという素晴らしい副大統領候補を選び、8月には情熱的で印象深い指名受諾演説を行った。今回のテレビ討論会は最後の試練だった。

トランプが落ち着きのない振る舞いで恥をかいたのを尻目に、バイデンは比較的冷静さを保ち、討論でいくつか手堅いパンチも放った。返答に窮する局面もあったが、トランプの乱暴な態度のせいで、それが目立たずに済んだ。

特に定評のある3つの世論調査によると、討論会をバイデンの勝利と考える人は、トランプの勝利と考える人より32ポイント、24ポイント、8ポイント多かった。討論会から2日後(トランプの新型コロナウイルス陽性が発表される前)の支持率でもバイデンがリードしている。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story