コラム

トランプ暴露本『炎と怒り』が政権崩壊を引き起こす可能性

2018年01月16日(火)17時31分

『炎と怒り』は5日に発売されるとたちまち各地の書店で売り切れに Phil Noble-REUTERS


0123cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版1月16日発売号(2018年1月23日号)は、緊急特集「トランプ暴露本 政権崩壊の序章」。話題の暴露本『炎と怒り(Fire and Fury)』の知っておくべきポイントと無視できない影響力を検証したこの特集から、ジョージタウン大学のサム・ポトリッキオ教授の記事を一部抜粋して掲載する。果たして暴露本騒動はトランプ政権の終わりの始まりとなるのか?>

ドナルド・トランプ米大統領は本を1冊も読んだことがないそうだ。そんな男が1冊の本のせいで大統領の地位を失ったとしたら、これ以上ない皮肉だろう。

マイケル・ウルフの『炎と怒り』が描き出すトランプは、大統領の仕事に恐ろしく不適任で不安定な人物だ。注意力がひどく散漫で、ろくに字が読めない可能性もある。テレビの有名人だが、人生は何十年も下り坂。精神を病んでいる可能性も少なくない。国家の統治には興味がなく、人生で唯一忠誠を誓った対象──自分自身にひたすら執着する。

この本で最も驚かされるのは、ウルフが取材したホワイトハウスの有力な情報源が全員、トランプはひどく子供っぽいと考え、もし「大人たち」が離れたらアメリカはどうなってしまうのかと心配していることだ。

トランプ時代のジャーナリストには、虚偽の海を泳ぐ技術が求められる。ホワイトハウスの内輪もめのひどさは、同僚を「背中から刺す」情報源たちの口から、毒がしたたり落ちる様子が目に浮かぶほどだ。彼らはライバルを追い落とそうと、山のような中傷や嘘、事実の歪曲をリークする。

ウルフ自身も、かねてからジャーナリストとして事実の取り扱いに問題があると言われてきた人物だ。脚色が過ぎる作り話だという批判を意識してか、この本の著者前書きにある種の「免責条項」を載せている。

ウルフによると、本文に真実ではない部分があったとしても、それは本書の大きなテーマ──政権の無能、不誠実さ、機能不全の証拠なのだという。「(ホワイトハウス内部の)争いと真実に対するいいかげんさは、本書の基本的な構成要素」であり、最終的な判断は読者に任せると、ウルフは言う。

この本に対しては、偏向した立場から書かれた単なる作り話だという批判が出ている。確かにジャーナリストとしてどうかと思う雑な部分も少なくない。単純な名前や肩書の誤りもあれば、誰が何を言ったかを完全に取り違えている箇所もある。

例えば、人気テレビ番組『モーニング・ジョー』の司会者ミカ・ブレジンスキーとジョー・スカーボローのエピソード。2人はその内容におおむね同意しているが、本の中でトランプの長女イバンカ・トランプ補佐官の発言とされているものは、実際にはミカの発言だったとも指摘している。

両手で耳を塞ぐ子供のよう

もっと大きな問題は、ウルフが前代未聞のレベルで自由な取材を許されたという事実そのものだ。内部抗争に明け暮れる組織の中で、ウルフは基本的に一方の側に付いていた。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、シカゴ・ロス・ポートランドから州兵撤退

ビジネス

米国株式市場=続落、25年は主要3指数2桁上昇 3

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、年間では2017年以来の大

ワールド

ゼレンスキー氏「ぜい弱な和平合意に署名せず」、新年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story