コラム

中国経済、波乱の1年の終わりに

2015年12月28日(月)16時15分

 次に、地方債に置き換えられる3.2兆元は、2015年の返済分にほぼ等しいとされます。銀行貸出は年利7%~9%程度、シャドーバンキング経由であればそれ以上の金利負担でしたが、地方債の発行利回りの上限は国債利回り(12月24日時点で1年物は2.31%、10年物は2.80%)の1.3倍に規制され、1年物貸出基準金利の4.35%よりも低く抑えられます。金利負担は以前の1/2~1/3程度となるプロジェクトも多くなっています。この地方債を誰が購入するのでしょうか?多くは銀行です。銀行にしてみれば、運用利回りがかつての1/2~1/3に低下するわけですから、本来なら拒否するのが当たり前です。しかし、中国の銀行のほとんどは政府(地方政府)の支配下にありますから、政府方針に逆らうことは難しくなっています。

 2015年の返済が猶予され、金利負担も大幅に削減されたことで、地方政府の資金繰りがある程度改善し、新たな投資プロジェクトも動き出しています。固定資産投資の先行指標となる、新規着工プロジェクトの総投資計画額は、1月~11月は前年同期比5.6%増と、1月~4月(同0.2%増)を直近のボトムに緩やかに回復しています。

 この他、2015年7月に前年同月比6.6%のマイナスまで落ち込んでいた乗用車販売は、10月以降、一転して好調となりました。10月は同13.3%増、11月は23.7%増です。この背景には、中国政府が2015年10月1日~2016年12月31日の期間限定で、市場シェアの65%を占める排気量1.6L以下の乗用車の車両購入税を車両価格の10%から5%へ半減し、購入意欲が刺激されたことがあります。

 もちろん、こうした政策には「需要の先食い」にすぎないとの批判があります。にもかかわらず今回の車両購入税の半減措置が打ち出されたのは、裾野産業が広く、消費への影響も大きい乗用車生産・販売をテコ入れしなければ、経済成長率が大きく下振れしかねないとの危機感の表れであるとみています。しかし、その一方でこうした政策に素直に反応する消費者が存在することは中国の強みでもあります。

 こうしてみると、住宅市場テコ入れ策にしろ、地方政府関連債務の地方債への置き換えにしろ、乗用車販売刺激策にしろ、中国政府が繰り出した政策は効いています。「中国政府はマクロ経済へのコントロール能力を失っているのではないか」との懸念は杞憂です。ただし、いずれも問題を抜本的に改善するのではなく、「先送り」にしています。中長期的には、一部地方都市のゴーストタウンに代表される住宅過剰在庫問題や中国全体の過剰設備投資問題、そしてこれらと表裏一体となっている潜在的不良債権問題の抜本的な処理を求められることになるでしょう。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

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