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ウクライナ侵攻に対する米世論とバイデンの大統領演説
一方で、上下の軸、つまり国際関係に関わるニュースに頻繁に触れている層と、一般の層の間にも違いがあります。ニュースに関するリテラシーの高い層は、「米軍とロシア軍の間で直接戦闘が起きたら、第三次世界大戦に発展する」ということも、「プーチンの核の脅しに対して舌戦に乗っては危険」ということも、正確な理解をしています。
ですが、一般の世論にはそのような「難しい論理」には親しみがありません。ですから、ウクライナから毎日のように流れてくる、ゼレンスキー大統領の愛国メッセージや、父子の涙の別れ、爆撃の中で幼児の救命に必死で取り組む病院などの映像に触れるごとに「アメリカはどうして出ていけないのか?」とか「プーチンの暴言を許すな」という感情に揺さぶられてしまうのです。
例えば、オハイオ州などの「州営の酒類販売店」では「ロシア製のウオッカを販売禁止」にして、そのウオッカの瓶を叩き割る動きなどが出てきています。いつものアメリカらしい反応と言ってしまえばそれまでですが、ある種の激しい感情が渦巻いているのは事実です。
3月1日(火)のバイデン大統領の一般教書演説は、そのような状況の中で、ある種の難しさを抱えていました。つまり、アメリカとしてはウクライナを支援するという立場を明らかにし、プーチンの横暴に対して強い警告をするという目的を達成しつつ、同時に「米軍をウクライナへは直接派兵はしない」「プーチンの核の脅しには乗らない」という難しい立場を「ブレずに」宣言するという難しい使命を負っていたのです。
今回の演説でバイデン大統領は、これを何とかしてやり遂げただけでなく、内政に関しても分断ではなく超党派の合意へと誘導するという巧みな演説で、苦しみながらも、何とか実現可能な政策の範囲を示すことができたように思います。
プーチンの精神状態は?
では、アメリカはこの「援助は惜しまない」「精神的には支える」「直接の米軍派兵は行わない」「飛行禁止区域の設定は米ロの空中戦闘の可能性があるので実施しない」というギリギリの姿勢を維持できるのかというと、今回の演説は何とか乗り切ったものの、世論、特に中道派の多数に渦巻いているウクライナへの激しい同情論をうまく誘導できるか、今後も難しい状況が続くと思われます。
そんな中で、2月28日前後から急速に、プーチン大統領について「精神状態に変調が起きているのでは?」という見解が出始めています。例えば、ブッシュ政権の国務長官を務めたコンディ・ライス氏は40年近くにわたるロシア・ウォッチャーとして著名ですが、「プーチンは人が変わった」「極めて不安定だ」という情報(インテリジェンス)を得たとして警告を発しています。
プーチンが、客人を謁見する際に長いテーブルの両隅に座るのは有名ですが、あれは世界中が「コロナ対策」と思っていたわけです。ところが、開戦後にそのテーブルの長さがどんどん伸びているという情報があり、「もしかして暗殺を恐れて疑心暗鬼に駆られている?」という憶測を呼んでいます。
いずれにしても、バイデン政権は直接介入を避ける構えを続け、世論の強い同情論を何とかコントロールしようとしています。その一方で、プーチンの変調など、事態の急展開への警戒をしつつ、政権としては外交再開の局面を見極めようとしています。これが現時点でのアメリカにおけるウクライナ問題への姿勢だと言えます。
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