コラム

迷走するアメリカのコロナ対策 登校再開をめぐって分裂する世論

2020年12月01日(火)20時00分

まず、登校再開に積極的なのは「低学年の保護者」と「共働き家庭の保護者」です。低学年の場合はオンライン授業の効果には限界があるし、そもそも保護者がサポートする必要もあります。ですから、リアルな学校の再開を希望する側になりがちと言えます。また共働きの場合は、コロナ禍の中ではデイケアなどの利用が難しく、とにかく子供に学校に行ってほしいということになるわけです。

一方で、保護者が在宅でしかも在宅勤務がフレキシブルにできたり、子どもの面倒を見る余裕のある家庭の場合は、感染防止の観点から「オンライン」を支持する場合が多いわけです。特にコロナに敏感であるとか、高齢者や既往症があってハイリスクな家族と同居している場合はそうです。

また高学年の場合は、オンライン学習でも変わらずに対応ができるということもありますし、またリアルかオンラインかということよりも、優秀な教師に教えてもらいたいという願いが強くあります。優秀な教師は多くがベテランであり、ハイリスク層ということになると、無理に登校を可能にしてしまうと、教師の側が危険を感じて辞職してしまう、それを生徒や保護者が恐れているという面もあります。

というわけで、生徒や保護者の考え方は1つにまとまっていません。バラバラであるわけですが、個々の思いは強いわけで、結果的にニューヨークという大都市の世論をまとめるのは困難です。ですから、市長の判断が迷走気味になるのは、ある面では仕方がないとも言えます。

ちなみに、教職員組合の方は「オンライン授業中心」という方向性で比較的まとまっています。平均年齢の高い組合員の場合は、やはりパンデミックが収束しない中では生命の危険を感じながらリアル授業はやりたくないわけで、そうした方向で結束しているからです。

NYなどの教育現場の現状はそうした状況ですが、アメリカでは先週の感謝祭休暇における民族大移動をストップできなかったために、今週後半から劇的な形で感染爆発が起きるのではという懸念がされています。そうなった場合は、デブラシオ市長は再び判断を変更するかもしれません。ワクチンが普及して、期待された「免疫の壁」が現実のものとなるまでは、こうした迷走が続く可能性もあります。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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