コラム

トランプ巨額脱税疑惑、スキャンダルの本丸はその先の借金問題?

2020年09月29日(火)16時00分

ニューヨーク・タイムズ本社前で囚人服を着たトランプに扮した人権活動家のパフォーマンス(28日) Carlo Allegri-REUTERS

<外国勢力の保証を受けて多額の借金をし、その言いなりになっているという疑惑がこのスキャンダルの本筋か>

米ニューヨーク・タイムズ紙は9月28日付の紙面で、トランプの過去10数年間の確定申告書(タックス・リターン)データを入手したとして、その異常な「節税」の実態を暴露しました。また、この10年間、トランプがほとんど連邦所得税を払っていないことも明らかにしています。

その「節税」ですが、ストーリーの概略は次のとおりです。まず、トランプは今世紀に入ってNBCテレビのリアリティーショー『アプレンティス(実習生)』が大当たりしたことから、追加の納税を何度も行っていました。前世紀末から通算すると、その納税額は18年間で9500万ドル(約100億円)に上ったのです。

ですが、その100億円をその後の修正申告でどんどん取り返していきました。つまり、収入に対する費用があったと主張してどんどん還付申告を行ったのです。国税がおかしいと判断してトランプの確定申告を承認しなくなると、トランプは見解相違につき申告が完了できない、従って自分には「確定」申告書はないと強弁しているのは、有名な話です。

では、その節税術ですがニューヨーク・タイムズの報じている内容は想像を絶するものでした。まず、有名なトランプタワーの居室をはじめとした家族の住宅はほとんど全てがオフィス扱いで、税務上の費用にしているというのです。フロリダの居宅にしても、ニュージャージーのゴルフコースに隣接した居宅にしても、全てがビジネス用の施設になっているそうです。

ヘアカットに7万ドル

また、テレビ出演などの際のヘアカットについても、トランプの場合は7万ドル(740万円)とか、娘のイヴァンカ氏の場合は10万ドル(1050万円)といった金額がそのままビジネス費用として計上されているそうです。そのイヴァンカ氏に関しては、ファミリー企業の役員であるにもかかわらず、その企業から74万7000ドル(約7800万円)が顧問料として払われており、受け取ったイヴァンカ氏の方もそれを個人所得ではなく自分の財産管理会社の収入にして、費用と相殺しているそうです。

本人は否定していますが、仮に事実であれば、全くの乱脈経理、意図的な脱税行為ということになると思います。

では、大統領選への影響はどう考えたら良いのかというと、これは少々難しい面があります。普通の政治家であれば、これだけのスキャンダルであれば一発アウトになるわけですが、トランプの場合はそうではない可能性があります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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