コラム

新学年を迎えたアメリカで学校、学区によって再開判断がバラバラな理由

2020年08月18日(火)14時45分

また、台湾などの先行事例にならって、「クラス内に陽性者が1人出たら学級閉鎖」とか「1校で複数出たら休校」などのガイドラインが決められている州もあります。ちなみに、学級閉鎖や休校の場合はリモート授業に移行することになっている州が多いです。

高校などの体育会活動は、それぞれの州の保健ガイドラインに従って、できるだけ実施することになっています。ただし、公式試合の実施に関しては慎重な州もありますし、成人である教員への感染をおそれて高校生の場合は生徒の自主トレが中心の場合もあります。また、リモートを選択したが、体育会は参加したいという場合、そうした選択が認められる州もあります。

では、どうして各学区バラバラで統一が取れていないのかというと、ここまで申し上げてきたように各学区(おおむね市町村単位)の教育委員会が独立していることが背景にあります。予算の独立性も高く、域内の税収でまかなうのが原則です。また、意思決定にあたる教育委員会の委員は、公選で選ばれることが多くなっています。

これに加えて、各学区の事情があります。大都市、都市、郊外、農業地帯といった違い、また新型コロナウイルスの感染状況の違いも大きな要素です。保守かリベラルかという政治風土、州ごとの文化の違いという要素もあります。

教師たちの姿勢も大きな要素です。アメリカの教員の多くは、教育に情熱を持っていますし、信念を貫くためにはストライキもやります。部活指導に情熱を傾けた結果、深夜から週末まで遠征と指導に明け暮れて家庭崩壊の寸前までになったような教員もいます。個人的にも何人かそうした人を知っています。

ですが、アメリカの教員は仕事に命は捧げません。自分の生命と職業に関する優先順位というのは、アメリカの場合はハッキリしています。自分の生命が大事なのです。その点で、比較的高齢だったり、既往症のある教員は苦しんでいます。リスクが避けられないと判断して、この夏までに教職を引退した教員も全米では相当数に上っていると報じられています。また、学区の安全対策が不十分だと判断したら対面授業を拒否するとか、それでも強制されそうな場合はストライキを打つ例もかなりあります。

各学区が独立していること、そして事情が異なることから、全米の各学区の対応は見事なまでにバラバラになっています。ですが、その背景はそれぞれに大変に複雑です。しかしトランプ大統領は、一括して「学校の再開」を強く指示すれば、反対する教員組合の多くが支持している民主党と、学齢期の子供を持つ有権者を引き裂くことができると思っていたようです。ですが、事態はそんなに単純ではないのです。

<関連記事:バイデン陣営はこれで「ターボ全開」? 副大統領候補ハリス指名の意味

【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批

ワールド

存立危機事態巡る高市首相発言、従来の政府見解維持=

ビジネス

ECBの政策「良好な状態」=オランダ・アイルランド

ビジネス

米個人所得、年末商戦前にインフレが伸びを圧迫=調査
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story