コラム

新型コロナで5400人が死亡、NJ州高齢者施設で繰り返された悲劇

2020年05月26日(火)16時40分

そこには要員や資材の問題に加えて、州全体の方針も関係していました。ニュージャージー州だけでなく、隣のニューヨーク州でもそうですが、4月のある時点で、一般の病院も含めてあらゆる病院、そして専門に関係なくすべての医療従事者がコロナ重症者の治療に駆り出されるなかで、両州ともに「施設の高齢者は重症化しても病院に移送しない」という方針が出されたのです。

理由としては、施設にはベッドがあるので治療が可能、一方で病院は一般の患者で収容人員が一杯だというものでした。ですが、実情としては施設の中では、陽性者と陰性者を隔離する体制も取れず、また重症者への治療も十分にできないために、感染拡大が続き大勢が死亡する結果となったのです。今から考えれば、州の医療体制全体として、高齢者を医療による救命の対象から除外していたようなものでした。

さらに問題なのは、アンドーバーの悲劇、そして実は3月の時点で全米を揺るがせていたワシントン州カークランドにおけるナーシング・ホームでのクラスター発生がこの州全体に感染を拡大させた問題など、先行事例を教訓にできなかったということです。結果として、人口900万のニュージャージー州で、高齢者の施設入所者が5400人死亡という悲劇につながったのです。

この問題、まだまだ全容は解明されていません。また、ニュージャージーだけでなく、ニューヨーク州の施設も深刻な状況ですし、現在感染拡大の続いている中西部でも同様の問題が起きているようです。感染拡大が収束に向かう中で、アメリカの高齢者施設における大量死については、あらためて大きな社会問題になる可能性があります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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