コラム

あまりにも悲痛な事態を前に言葉を失うアメリカ社会

2020年03月31日(火)15時45分

そんな中、先週は医療崩壊を食い止めるために、陸軍工兵部隊と州兵による臨時病院建設の突貫工事が進んだり、この30日の月曜日には、バージニア州から回航されてきた米海軍の病院船が到着したといったニュースもありました。しかしニューヨークのデブラシオ市長によれば「それでも病床数は足りない」というのです。

臨時病院ということでは、宗教系の団体がセントラルパークにテントを建てて重症者の収容できるベッドを用意しています。これも時間との必死の戦いを担っている一方で、ニューヨーカーの愛するセントラルパークに、突如真っ白いテント村が出現している光景は、かなり驚きをもって受け止められています。

そんな中で、気がつくとメディアには不思議な静けさが漂っています。前週までの騒々しい、景気刺激策法案審議、復活祭までに正常化と主張するトランプと、それに対する反対論など、様々な対立が消えてしまい、社会には停滞感が濃くなっています。

政局ということでは、民主党のジョー・バイデン候補は、一時はコロナウイルス対策で大統領に対抗するため、イギリスの「影の内閣」にならってウイルス対策に関する会見を頻繁に行うとしていましたが、今はほとんど存在感がありません。また、バーニー・サンダース候補は「コロナ危機だからこそ、国民皆保険を」と大声で主張していましたが、結局「コロナ関係の医療費は本人負担なし」という政策がスタートする中では、こちらの存在感も薄くなっています。

では、大統領の権威が上がっているのかというとそうとも言えません。数字上の支持率は上昇していますが、ファウチ博士、バークス博士の率いるホワイトハウスの専門家チームへの支持が高まっているだけで、大統領の存在感は少しずつ薄くなっているように感じられます。

一方の株式市場はここへ来て、一進一退になっています。何しろアメリカの年間GDPを上回る金額の景気刺激策を可決成立させた中では、航空産業や観光産業などにはダイレクトな公的資金注入がされるわけで、市場としては企業の価値は維持されると見ているようです。ですが、今後、失業率、GDP、企業業績などの数字が出てきたり、あるいは感染者や死亡者の数字が一段と悪化した場合には、どうなるかは分かりません。

このため、今週の週明け、アメリカには不気味な静けさが漂っており、社会全体が状況の悪化を前にして「立ちすくんで」いるようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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