コラム

ヒューストン豪雨災害に見る、「線状降水帯」の恐ろしさ

2017年08月29日(火)16時15分

ですが、その原因が「線状降水帯」という点では共通しています。細い帯状に積乱雲が連なって次々に移動する現象です。結果的に、限定された地域で長時間に渡って連続して大量の降水量を記録することになります。大変に恐ろしい現象です。

恐ろしいというのは、実際に線状降水帯に襲われて豪雨の被害が発生する恐ろしさということもありますが、同時に、少し離れた場所では降水量は限定的だったりするため、深刻な被害を受ける地域がなかなか特定できないという問題があるからです。

今回の「ハービー」が典型的な例ですが、雨雲レーダーの画像によれば、ハリケーンを取り囲む大きな「渦巻きの腕のようなもの」が何本か発生しています。そして、ヒューストンにかかった「腕」は直径が500キロ近くある外周円で、部分的にはほとんど直線が南北に連なった形を形成していました。ですから、その「腕」が通っている部分は激しい雨が続き、その東西に外れた地域では降雨はそんなに深刻ではないという差が生じていました。

そこで何が問題かというと、ハリケーンや台風、あるいは低気圧による「線状降水帯の発生」が予測できたとしても、その「帯がどこを通るのか?」という詳しい予報は、実際に雲が形成されないと分からないことです。

【参考記事】リアル世界に生まれるフェイスブックの共同体

ですから、仮に「線状降水帯による集中豪雨の危険がある」ことを、物理的に避難が可能になるリードタイムを計算して指摘し、危険のある地域の強制避難勧告を出した場合に、「それが外れる可能性もある」ことになります。

避難勧告を出しておいて、それが外れると「結果オーライで良かった」ではなく「予想が外れてムダな避難をさせられた」という批判が出てしまうのは、アメリカでも同じです。相当に早期に整然と避難が可能になるカルチャーがある一方で、「豪雨直撃の確率が40%とか60%」というレベルでの避難勧告はそう簡単に出しづらいのです。

ヒューストンに関しては、まだ被害が現在進行形であって、もしかすると再度の豪雨被害が発生するかもしれない危険な状況です。ですが、この「線状降水帯」による被災という問題は、どこかできちんと考えておかねばならないように思います。一つの考え方は、確率が40%程度でも避難勧告を出せる体制づくりということであり、同時に、予報が外れて被害が回避できた場合でも、「ムダになった避難のコスト」が洪水保険等で弁済される仕組みを考えることだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story